031 妖精に受験資格はあるのか?

 15歳になった私とロメーヌは、『競売人オークショニア養成学校』の入学試験を受けた。

 試験は年に一度だけ、2月の下旬に行われた。


 そもそも妖精に受験資格はあるのか?


 当然、私もロメーヌも、ずっとそれが心配だった。

 だから12歳のころ、私はロメーヌの受験資格について調べておこうと行動を起こしたことがあった。


 まず考えたのは、手紙を書いて問い合わせることである。

 養成学校には、『受験に関するお問い合わせ窓口』があった。

 そこに『妖精でも受験できますか?』という内容の手紙を送ったらどうなるだろうか、と考えたのだ。


 まあ、『バカから手紙が来た』と思われるか、『子どものイタズラ』だと思われるだろう。

 12歳のころの私は、自分で書き上げた手紙を何度も読み返してから、


「さすがにもう少し頭を使わなくちゃいけないな……」


 と、部屋で一人つぶやいたものだ。

 それに、ロメーヌが妖精であるということは、出来ることなら隠しておきたいと思った。

 そこで、


『人間や獣人じゅうじん以外でも、受験はできますか?』


 という質問の仕方に変更した。

 その尋ね方なら、少なくとも『妖精』であることは隠せるからだ。

 それと、


『年齢確認が出来るような書類が用意できません。それでも受験できますか?』


 という質問も手紙に書いた。


 私なんかは、町の役場やくばに行けば年齢確認ができる書類を用意することができる。

 けれど、ロメーヌは死んだことになっていたので、妖精の国でもそういった書類を用意することができないのだった。


 しかし仮に妖精の国の書類があったとしても、人間の国で正式な書類として通用するのかという問題もあった。

 人間の世界では『妖精なんて空想上の生き物』であり、存在がおおやけには信じられていないのだ。


『人間や獣人以外でも受験できますか?』

『年齢確認が出来る書類が用意できないのですが?』


 そんな質問を書いた手紙を眺めながら、『この手紙に私は、自分の名前と住所を書いて養成学校に送るのか……』と、さすがに躊躇ちゅうちょしたものである。


「でも……こんな手紙を送ったとして、まともに答えてもらえるのかなあ?」


 手紙を書いたはいいけれど、私は怖気おじけづいてしまった。


「だけどこれは、絶対に解決しておかなくちゃいけない問題だよ……」


 私は手紙を見つめながら自分にそう言い聞かせた。

 ロメーヌは人間の世界でオークショニアになるために、ハンマー術の修行を本当にがんばっていた。

 彼女の努力を無駄にするわけにはいかなかった。


 もしも、私があきらめてしまったら?


 彼女の受験の道が閉ざされてしまう。

 ロメーヌ自身は、人間の世界で自由に動ける状況ではない。だから、私がこの問題を解決しておきたかったのだ。


 しかし、私とロメーヌが抱えている問題は、12歳の子どもの力だけでは解決できないような気がした。

 自分が子どもであることの無力さを認め、私は素直に誰かに相談することを考えた。

 できれば、『妖精の存在を受け入れてくれる大人』の力を借りられないかと思ったのだ。


 すぐに頭に浮かんだのは、魔法協会の『レーズンばばあ』と『美人のお姉さん』だった。

 魔法使いたちは、妖精の存在を認めており、空想上の生き物とは考えていないからである。


 私はマルクがいないタイミングを見計みはからって、魔法使いたちが暮らしている小屋を訪れた。

 ちなみにロメーヌからは、夏の間にきちんと確認はとってあった。

 彼女の受験資格を調べる際に――どうしても必要な場合は――ある程度の秘密を私の判断で協力者に打ち明けてもかまわないと。


 私は魔法使いたちに、妖精の女の子が養成学校の試験を受けたいと思っていることを相談した。

 レーズンばばあとお姉さんは、二人同時に声を上げた。


「「学校に!?」」


 私は「はい……」と小声で答えてから、もう少し詳しい説明をした。

 もちろん、『ロメーヌが妖精なのに人間の姿をしている』とか、『ロメーヌの両親の身に起きた事件』などは秘密にしたままだ。


 魔法使いたちに話を聞いてもらった後、私はこんな相談もした。


「このことを、マルクやパブロにもやっぱり打ち明けた方がいいですか?」

「えっ? いいよいいよ、言わなくて」


 レーズンばばあの方が、あっさりとそう答えた。

 それから、お姉さんが言った。


「親友だからって、別になんでもかんでも打ち明ける必要はないと思うよ。そういうの秘密にしておいたって、ずっと仲良くできるのが親友ってやつだからさあ」


 レーズンばばあが、お姉さんに尋ねた。


「あんた、親友いたっけ?」

「んっ? いたことないねえ」

「いーっひっひっひ」


 とにかく、魔法使いたちの意見を私は参考にした。ロメーヌの受験の話は、マルクやパブロには内緒にしておくことにしたのである。


 私は『しゃべるハンマー』を妖精の少女に貸したことまでは、マルクとパブロに打ち明けていた。でもさすがにロメーヌの秘密などは、二人にも打ち明けることができなくて、ずっと黙ったままだったのである。


 マルクとパブロも私の様子から何かを察してくれたのか、ロメーヌとしゃべるハンマーのことについては、必要以上に質問してくることもなかった。

 二人のそういうところが、私は好きだった。

 もしロメーヌが試験を受けることができたら、私はその後で二人にきちんと謝ろうと考えていた。


 続いて私は、養成学校に送るつもりで書いた手紙を、念のために魔法使いたちに読んでもらった。

 レーズンばばあが言った。


「うん。良い手紙じゃないか。ちゃんと書けているよ」


 お姉さんが手紙に目を走らせながら口を開いた。


「この手紙を養成学校の人間に見せてさ、回答をもらってみたらいいんじゃないか? ただし――」


 お姉さんは手紙から顔を上げて、私を見つめながら話を続けた。


「まあ、名前や住所は書かない方がいいな。考え過ぎかもしれないけど、念のためにね。その妖精の女の子を守るためにも、余計なトラブルのたねは出来るだけまかない方がいい。ここまでするぐらいなんだから、お前にとって大切な女の子なんだろ?」


 私の名前や住所を下手に書いて、万が一そこから妖精の存在が知られたら面倒なことになるとの判断だった。

 お姉さんはその大きな胸の下で両腕を組んで「うーん……」と、しばらく考えてからこんな提案をしてくれた。


「あのさ、魔法協会の本部も養成学校も、どちらも王都おうとにあるだろ? 魔法協会の本部にいる人間に協力してもらおうと思うんだけどさ、どう思う?」


 お姉さんが心の底から信頼している人物が、魔法協会の本部に一人いるとのことだった。


「王都にいるあいつに、お前の手紙を持たせてさ、養成学校に直接出向いてもらうよ。それで、養成学校の人間に手紙を読ませて、答えてもらおうじゃないか」


 そんなわけで名前も住所も書いていない手紙を、私は魔法使いのお姉さんに預けた。お姉さんが王都にいる協力者に送ってくれることになったのだ。

 ちなみに、ずっと後になってからわかるのだけど、王都に住むその協力者は、お姉さんの恋人だった。


 後日、私はとてもきちんとした回答を、養成学校から書面で受け取ることができた。

 王都のお姉さんの恋人が回答書を養成学校から直接受け取り、そしてお姉さんに送ってくれたのである。

 私の書いた手紙も、養成学校の人間に読んでもらった後、きちんと回収してくれたようで、いっしょに送り返されてきた。

 私の名前や住所、それとロメーヌのことは、養成学校にはいっさい伝わっていないとのことだ。


 回答書によると――。

『ハンマー術入試』において、『受験者は人間や獣人に限る』という決まりが、そもそも存在しないとのことだった。

 ハンマー術の実力こそがすべてであり、人間や獣人以外でも受験可能なのである。

 お姉さんの恋人からの手紙がえられていて、その補足ほそく説明によると、


『極端な話、猫でも犬でも、カエルでもありでも、ハンマー術の実力さえあれば、実技じつぎ試験には合格できる』


 とのことだった。

『まあ、面接があるけれど』とも書かれていた。


 また、受験資格である『15歳以上』という条件なのだけど、年齢を証明できる書類がなくても大丈夫だった。

 補足説明によると、


『そもそも辺境へんきょうの地域出身の人間や獣人の中には、年齢確認の書類をまったく用意できない者が、毎年必ず何人かいる』


 とのことだ。

 その対策として、『生まれてからだいたい何日くらい経過した生き物なのかがわかるとても便利な魔法がある』らしい。

 魔法による年齢検査をパスできたら、年齢確認の書類がなくても受験できる救済措置きゅうさいそちが用意されていたのだ。


『人間や獣人以外でも受験可能』

『年齢チェックの魔法をパスできたら問題ない』


 色々と調べてもらった結果――。

 妖精であるロメーヌだって、現状のルールのままで充分に受験可能だったのである。

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