第3章 はじめてのオークション
013 第3章 はじめてのオークション
《オークショニアに向かって
ドングリを投げないようお願いします》
オークション会場の入り口に、アニキがそんな紙を
妖精の
大人になってから、当時のことを振り返ると――。
『あれって、とんでもなく奇跡的な出来事だったんじゃないのかっ!?』
そんな感想が浮かんだ。
森で妖精と出会えたことだけでも奇跡だった。
それなのに私たちは、妖精たちに受け入れられ、そのうえオークションの開催まで許可されたのだから!
あの夏――。
まだまだ子どもだった私たちが、妖精の屋敷でオークションを開催した。
これを奇跡と言わずして何と言うのか!
* * *
妖精の少年・サンドロと戦った後。
赤髪の細マッチョ少年・パブロが、気絶したサンドロを背負って歩いた。
しかし、パブロがサンドロを背負う前――。
私は実はこっそりと、地面に横たわるサンドロの身体をハンマーであちこち叩いていた。ハンマーは戦闘時の大きなサイズではなく、魔力を込める前の普段通りのサイズだ。
『人類の歴史の中で、
当時の私は、そんな人間になることを夢見ていた。
だから、妖精の身体をあちこちと木槌で叩いて、感触を確かめたくて仕方なかったのである。
身につけたハンマー術を使って、サンドロにダメージを与えることなく叩くことは可能だった。
私の心の中で、『ハンマー術の悪魔』がささやいた。
『リザを叩くのはマズイ。だが、サンドロなら、まあ……叩いてもいいんじゃないか?』
戦闘後の
とにかく、このとき私のハンマーは『妖精の少年の身体』の感触をきっちりと覚えたのだった。
パブロが気絶したサンドロを背負うと、妖精の少女・リザの案内で私たちは屋敷の敷地内に足を
敷地内には妖精の大人たちが何人もいた。
リザやサンドロと同様に、みんな髪が淡いピンク色だった。
彼らにとって人間の子どもというのは、やはり珍しい存在だったようだ。敷地内を奥へ奥へと進むにつれて、私たちを取り囲む妖精の数は
最終的には、ざっと20人以上の妖精と出会ったと思う。
気絶したサンドロを大人の妖精たちに預けると、リザと私たちは屋敷でもっとも地位の高い存在と向き合うことになった。
リザの母親だ。彼女がもっとも地位の高い存在だった。
――というか、リザの母親は『妖精の国の女王』だったのである。
あまり詳しくはわからないのだけど、妖精の世界にはたくさんの
リザの母親は小さな国の女王で、屋敷はそんな妖精の女王の
天井の高い部屋だった。赤色の細長い
赤い絨毯の上を私たちがぞろぞろ歩くと、玉座みたいな椅子に座っていたリザの母親が静かに立ち上がった。
彼女は歩き出し、こちらに近づいてきた。私たちを間近で観察したくなったからだと思う。
彼女にとっても、人間の子どもはおそらく珍しかったのだろう。
母親は、リザをそのまま大人にしたみたいな印象だった。長い髪は腰のあたりまで伸びていて、他の妖精たちと同様に淡いピンク色だ。
リザの方は緑色の服を身につけていたけれど、母親の方は上等なシルクで仕立てられた白いローブに身を包んでいた。
母と娘で顔はよく似ていたが、体型は違った。
リザはほっそりしていたけれど、母親の方は胸が大きくてグラマラスな身体つきだったのである。
そのためウブな少年だった私は、なんだか目のやり場に困った。
代表してリザが、これまでの経緯を母親に説明した。
リザが早朝に家出をしたことや、森で私たちと出会ったこと。
サンドロと戦ったことなどをだ。
ときどきマルクが説明を
パン屋のステンドグラスを割ったことや、私たちがオークションを開催するつもりで、ここにやって来たことも説明した。
話をじっと聞いていた母親だったが、口を開いたかと思うと、まずは私たちに対して感謝の言葉を
娘のリザが人間の町に行かず、こうして妖精の屋敷に無事に戻ってきたのは、私たちのおかげである――と母親は判断したのだ。
そして、妖精の女王が妙に食いついてきたのは『パブロがパン屋の娘に恋をしている』という話題だった。
リザの母親は、両目をキラキラ輝かせながら言った。
「その赤髪の少年とパン屋の娘さんとの恋が
彼女の反応は、娘のリザと本当によく似ていた。
母も娘も恋の話には
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