第7話 ユウト対ゲオルギィ

「クーラリオ、もう一つ聞いておきたい事があるんだ」


「何だ?」


 とちゅうの空の上でユウトは話を切り出した。それは今戦っている恐ろしい魔導師、ゲオルギィの事だった。


「どうしてあのおじさんはみんなの命の光を取り上げちゃったの?一体何をやろうとしているの?」


 その質問にしばらく答えないクーラリオ。


「ねえ、知ってるなら教えて。どうしても知りたいんだ」


 しっかりした声と視線を向けてユウトはたずねる。その様子をちらりと見ると、ようやくクーラリオは口を開いた。


「……。知ってどうするんだ?」


「どうするって、相手のことを少しでも知っておきたいのは当たり前だよ!」


 クーラリオの怒ったような返事に、めずらしく言葉を乱暴に使ってしまうユウト。


「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず、か」


「うん、そうだよ。相手のこともよくわからないんじゃあ、どうしたらいいのかわからないよ」


 相手のことを知らないまま戦いを続ける事ができないというユウトの言っている事はもっともな話だった。しかし、クーラリオはなおもためらいを見せる。


 カシャカシャと目のシャッターをせわしくまばたかせるクーラリオ。ユウトにそれを教える事で本当に迷ったりしないか、しっかりと見つめなおす。それにユウトは力強い眼差しを返してきた。


 だったら、教えるのを迷う必要はない。教えない事でかえって集中できなくなるかもしれないからだ。


「あいつは自分の息子を生き返らせようとして、こんな事をしでかしやがったんだ」


「ええ!?あの人は自分の子供を生き返らせようとしていたの?!」


 おどろきをかくせないユウト。だがショックを受けているからといって中断する余裕はないと、かまわずに続ける。


「ゲオルギィの息子はちょうどユウトと同じくらいの年に、とつぜん事故で死んでしまったんだ。それからあいつは息子を生き返らせようと、研究に研究を重ねはじめた。そしてたどりついた答えが、他人の命の光を使って、死んだ人間を生き返らせることだったのさ」


 ゲオルギィの動機を聞かされてショックをかくせないユウト。だが、すぐに自分が命の光をぬき取られ、マーダルに救われた時の事を思い出していた。


「で、でも!人の命の光は、それぞれの人のものだから、ほかの人のじゃあ長く持たないってマーダルのおじいさんが!」


 そう、マーダルは言った。他人の命の光で命をのばすことはできても、それはほんの少しだけだという事を。


「そうだ、マーダル様のおっしゃった通りだ。いくら大勢の人の命を電池みたいにとっかえひっかえにするなんて、いつまでもできるわけがねえんだ。それに大勢の人のものを使っていたら、元の命の光も変わってしまって、いずれ消えてしまう」


「クーラリオ、よく知っているんだね」


「ああ。死んでしまった大切な人を生き返らせたいって考えるヤツは、いつでもどこにでも大勢いるからな。その中には本当に生返らせようと、それをためしてしまったやつもいたんだ。だから記録も残っているってわけさ」


「そうなんだ……」


 ユウトのお父さんもお母さんも元気だ。一人っ子なので兄弟姉妹はいなくて、おじいちゃんおばあちゃんたちは、ユウトが生まれる前に亡くなっているので会った事はない。だから、大切な人をなくした気持ちが本当にわかるわけではない。


 でも、自分の両親や仲の良い友達がとつぜん死んでしまったとしたら。きっとものすごくかなしんで、できることなら生き返らせたいと思うにちがいない。でも。


「でも、生き返ってほしい人がいるからって、関係のない大勢の人の命をうばうなんてまちがっているよ!自分と同じようにかなしむ人をたくさんふやすだけじゃないか!」


「そうだ。全くその通りだ。でもな、自分の大切な人をなくしてしまうと、そのことが見えなくなっちまうやつが大勢いるんだ」


「だからとめなきゃ、やめさせなきゃいけないんだね」


「ああ。本当に取り返しがつかなくなる前にとめなきゃいけないんだ。そしてまわりが見えなくなって、まわりの声が聞こえなくなっちまったやつは、力づくでとめるしかねえ」


「力づくなんていやだけど、ほかに方法がないんだったらやるしかない」


「おうよ。わかってきたじゃないか」


 どこかうれしそうにしているクーラリオに、ユウトはかなしそうにつぶやいた。


「でも、わかりたくなんてないよ。本当は」


 しかしクーラリオはそんなユウトにやさしく返事をする。


「ユウト、お前はそれでいいんだ。いきなりものわかりがよくなって、何でも力づくで解決してやるなんて言い出したら、そんなのはユウトじゃないもんな」


 最初はおびえてためらったり、今でも口ではためらうような事を言っているユウトだったが、いざとなったらおどろくようなことを何のためらいもなくやってしまうのがユウトなのだと、クーラリオはわかっていた。


「よし、できるかぎり話し合いで解決するのをめざして、気合を入れていくぞ」


「うん!」


 イナズマのような速さで大空をかっ飛んでいくユウト。だが、山の上空に飛びこんだ時、目に見えない壁にさえぎられてしまった。


 それはゲオルギィが山全体に張りめぐらせていた結界だった。とくに祭壇を築いている山頂には空から近づけないように、特に結界が強くなっているようだ。


「空がだめなら、地面から!」


 結界の一番あついところから突破するのをあきらめたユウトは、そのまま地面に向って急降下。今度は地面と空の間を針でぬうような高さを、大砲の弾のような速さで駆け抜ける。


 地面の結界は、結界の力をこれまで周囲を守っていた四つの精霊たちに頼っていた。だから精霊たちの結界が無くなってしまった事で、その壁はずいぶんとうすく、そして弱くなっていたのだ。


 風の刃を四枚ほどぶつけてヒビを入れ、あとはユウトが勢いにまかせて体当たりするだけで、簡単にすり抜ける事ができた。


「よし、結界の中は大して準備していないみたいだ」


 その時、目の前に立ちふさがる大きな影が三つ、四つ、もこもことあぶくがわきだすように現れた。土くれでできた巨人だ。


「ごぉぉん!」


 巨人たちは次々と手元にあった大きな岩を持ち上げて投げつけてくる。どの岩も大きさが一メートル以上はあるだろう。まともにぶつけられたら、ユウトの体はぐしゃぐしゃに押しつぶされて、ピザみたいになってしまうだろう。


「そんなのこわくないからね。そんなのこわくなんかあるものか!」


 でも今までに比べたらこわがるようなものではない。ユウトは火の力で炎のかたまりをいくつも作りだす。


「火の魔法、ホムル!いっけぇ!」


 巨人が投げようとする岩にねらいをつけて、岩を投げるより先に炎のかたまりをぶつけた。岩は巨人たちの手元で次々に花火のように爆発をおこす。


 土くれの巨人たちはその爆発で腕を吹きとばされてしまうが、元々が土でできているのだ。すぐにモコモコと土をすいあげると、たちまちのうちに元に戻してしまう。


「やっぱり、一度に全部ふきとばさないとダメなのかな?」


 すると、ユウトの両足のアミュレットがほんの少し大きくなってユウトの体から少し浮き、力強くうなり、回転をはじめる。それは自分の力を使ってくれという土の精霊の意思だった。わかったよ、とユウトはうなづく。


「土の魔法、アスト!いって!」


 山肌を勢いよく一蹴りした。すると地面が波うちながらヤリのように鋭くもり上がり、土くれの巨人たちをたちまちのうちにくし刺しにした。


「同じ土の力で負けるものか」


 串ざしにされた巨人たちはしばらくの間じたばたと暴れていたが、もり上がった地面が引っ込むと、一緒に吸い取られるように土くれの巨人も消えていった。


 それをみとどけて、ふうと一息入れるユウト。今のユウトは、マーダルからさずけられた力だけでなく、精霊たちからかしてもらった力も、見事に使いこなせるようになっていたのだ。


「今のボクには精霊さんたちがついているんだ!みんなを取り返すまでは、絶対に負けるもんか!」


「ほう、我が用いた精霊の全てがあのこわっぱに手をかしおったか。ならば小細工など通用しないな」


 山頂に作られた祭壇。ゲオルギィはうでを組んで眼を閉じたままその場所に立っていた。


「儀式を行なうには、空が白みかかる時を待たねばならぬが、それにはまだしばらく間がある。その間にこの祭壇を壊されてはかなわぬ」


 やがて赤黒いまぶたの奥にかくされていた赤銅の瞳がゆっくりと開かれた。


「だがしょせん付け焼刃のこわっぱよ。最後の余興として楽しませてもらうぞ」


 ゲオルギィの体から火山の噴煙のようにまっ黒な蒸気がふきあがる。かたまった血のように赤黒い色のローブが勢いよくめくれあがって、その下にかくされていたゲオルギィの鋼鉄のようにがんじょうな体が星明りの下にさらされたのだった。


「見えたよ!あそこだ!」


 ユウトはついに山頂がはっきりみえるところまでかけ上った。


 だがその時、その山頂から、今まで戦ってきた精霊たちとは比べ物にならないほど恐ろしい気配のかたまりが飛んでくるのをユウトは感じ取った。


 あわてて身をひるがえして急上昇する。すると直後に、ユウトの足元から爆弾が爆発したような衝撃がふきあがってきた。襲ってきた何かが足元に来たのだ。


「ほう、初手をよけてみせるとはずいぶんと感が良くなったようだね、かわいい魔法使いくん」


 ゆっくり降り立ったユウトが見たのは、周りの岩肌を月のクレーターのように吹きとばした真ん中に立っていた人間らしいものの姿だった。


 その相手の顔を見た瞬間に、思わず息をのんで後ずさりしてしまいそうになるユウト。


 忘れられるわけがない。忘れるわけがない。その相手こそ、みんなと自分から命の光をうばい取って、みんなの体をカチンコチンに凍らせてしまった、赤銅の魔導師ゲオルギィだったからだ。


 ユウトは心臓をにぎりつぶされそうなほどの恐怖と、目の前がまっ赤になってしまうほどの怒りをおしこらえて、ゆっくりと、そして力強くゲオルギィに言い放った。


「お願いします!みんなから取り上げた命を、命の光を返してください!」


 しっかりと目線をそらさずにゲオルギィの瞳をにらみつけているユウトを、ゲオルギィはゆっくりとみすえた。


「今なら、今だったらまだ、じょうじょう……しゃくりょうってしてもらえると思います!みんなの命の光を本当に儀式に使って、本当の人殺しになんてならないでください!」


 ぜいぜいと言い終わっただけで、肩で息をついてしまうユウト。人と言うより怪物そのものとしか思えないゲオルギィを相手に、一歩も引かずに話をするというのは、それだけ体力と気力をつかってしまうのだ。


「なにをバカなことを言っているのかな、君は?」


 しかしゲオルギィの方といえば、反省するどころか顔色一つ変えずにすずしい様子。


「我が師匠であるマーダルが直々に来たのならともかく、その力を分け与えられたこわっぱが一人だけ」


「一人じゃありません!今のボクにはみんながついています!それにマーダルおじいさんの使い魔のクーラリオだっているんです!」


「似たようなものだ。そんな虫けらどもがいくらついていようがな」


 やっとの思いで味方につけた精霊たちを、そしてクーラリオを虫けらとはきすてたゲオルギィ。その言葉を聞いて、ユウト以上に精霊たちが怒っているようだった。風の羽飾りが、水のマフラーが、火のブレスレットが、そして土のアミュレットが、ガチガチと怒りにふるえだす。


「あんな簡単な呪法にあやつられてしまうような、程度の位の低い精霊がいきがったところで、この私には通用しないことがわかっていないようだな」


「何て事を、何てひどいことを!」


 ユウトは今まで生きてきた中でもこんなに怒った事はないというほど怒っていた。どの精霊も、ゲオルギィの身勝手のために、とてつもない痛みに苦しめられていたのだ。それを反省するどころか見下すような言い方をするゲオルギィは許せない。


 だが、それでも、それでもその怒りをお腹の底にのみこんで、ユウトは最後の説得をこころみた。


「お願いです!ボクは話しあいで解決したいんです。みんなの命の光を返してくれたら、ボクの分はそのままでもかまいません!だから、みんなにあやまって反省して、おとなしく魔導界に帰ってください!」


 ユウトは力いっぱい大きな声をお腹の中からしぼり出してゲオルギィにぶつける。しかしゲオルギィは少しも動じたりしないまま。


「すでに手に入れているものを返さなくていいだと?それでは取引にはならないな」


 やれやれとばかりに片手をあげるしぐさをするゲオルギィ。


「儀式をはじめられるのは夜空が白みはじめる時。それまでしばらく時間がある」


 指をコキコキとならしはじめるゲオルギィに、ユウトはタクトをしっかり手ににぎりしめてみがまえる。


「我が師、マーダルの力を授かったこわっぱよ。儀式までの時間つぶしだ。遊んでやろう」


 重々しいローブをぬぎすてて、鋼鉄のような体をあらわにしたゲオルギィは、一直線にとびかかってきた。


「あんなすごい体の人に捕まったら、ポンコツなボクじゃ何にもできない!」


 ユウトは手にしたタクトを小きざみにふりかざして、細い風の刃をいくつも作り出す。それら風の刃をゲオルギィの目の前に、魚とりの投網のように投げつける。目くらましと足止めのためだ。


「こんなもの!」


 だがゲオルギィは魔法の呪文すらとなえずに、風の刃でできた網をうでの一振りで払いのける。


「すごい!」


 風刃の網が払いのけられた直後に、ユウトは地面を力いっぱいにけって空に飛び上がる。


 相手と距離を取らなければ勝ち目はない。だが、相手は赤銅の魔導師の称号を持っているほどの魔導師なのだ。目くらましだけで止められるものではない。だから。


「水と土の力よ!お願い!」


 後を追って飛び上がろうとするゲオルギィの足を、水と土の大蛇がからめとった。飛び上がる直前に、ユウトが足元に仕掛けておいた魔法が発動したのだ。


「ほう?!」


 だがゲオルギィはまだまだ余裕の様子。その両手に炎をまとうと、力任せに乱暴に水と土の大蛇をひきちぎった。そして怒りの形相で飛び上がる。


「こんなもので大人を止められるとでも!」


「思っていません!だから!」


 その時、真横から突風がたたきつける。四連続の攻撃で姿勢がくずれたゲオルギィに、今度は狙いをすました火の玉が、さかさまになった夕立のように襲いかかってきた。


「それっ!」


「本命はこちらというわけか!うおお!」


 火の夕立に、水のバリアと土のつぶてをつかって防ぐゲオルギィ。だが、吹き上がるような火の夕立に、上空に、上空に追いやられていく。


「ぬうう……。精霊の力にたよった一本調子でないというのか?!」


 その時、背中に重たい気配を感じたゲオルギィ。ふと振りかえって見ると、そのま上には、石炭のようにまっ黒な雲が固まっていた。


「こ、これは?!」


 まっ黒な雲のかたまりは、ユウトが作り出したカミナリ雲。ユウトがくりだした風と火の力で上昇気流を作り出し、ゲオルギィが防御で使った土と水の力も利用して雨雲を作る。そしてその雨雲に、精霊たちの力を思い切りそそぎこむ。雨雲にためこまれた力は、まるで爆発する寸前の爆弾のようにふくれあがっていた。


「いっけぇ!」


 ユウトは力いっぱい天にのばした両うでを、ゲオルギィめがけてふり下ろした。それは、爆弾雲に点火のスイッチを入れる合図だった。


 爆弾雲からとびだしたカミナリは、一直線に真下のゲオルギィを直撃。闇夜をバリバリと切りさくはげしい光と音がとびちって、ゲオルギィの姿は消え失せてしまう。


「ぜっ、ぜっ、ぜぇ……」


 むせこむように息をするユウト。だが、これで終わったなんて考えていない。すばやくあたりに目を配って、動いているものがいないか確かめる。


 すると闇夜に一点、ゆらゆらと不自然にかげろうのように光がゆがんでいる場所を見つけた。そしてその瞬間、考えるより先にタクトを振りかざし、風の刃を投げつけた。


「見事だこわっぱ」


 風の刃はうでの一ふりで払いのけられた。やはりゲオルギィは生きていたのだ。それもケガどころかさっきと同じように服装に何の乱れも汚れもない姿で。


 けれどさっきと一つだけ違いがあった。ゲオルギィはその手に土と鉄を混ぜて固めて作ったような、重々しくて不気味な大きな杖を手にしていたのだ。


「こわっぱ、誰に雷の魔法を教えてもらったのだ?それはマーダルの得意とする魔法の一つだったが、まさか教わる時間まではなかったはずだが?」


「図書館で読んだ理科の本で、雨雲がどうやってできるのか読んだことがあったから試して見ました。マーダルのおじいさんもそういう魔法が得意だったのは知りませんでしたけど」


 ユウトの返事を聞くと、ゲオルギィはその不気味な口元を悪魔のようにねじまげて笑い出した。


「それはそれはすばらしい!お勉強ばかりがよくできて、応用することを知らない魔導界のおぼっちゃんエリートたちのお手本になってほしいくらいだな。ハハハハ……」


 不敵に笑い声をあげるゲオルギィ。


「だがあいにく私はどん底からはいあがって、赤銅の称号を得た魔導師だ。その魔法は私は十三の時に自分の力で会得したし、ましてそれはわが師、マーダルの得意とするものでもあったからな」


 するとゲオルギィは手にしていたいびつな杖をまっ二つにへし折り、にぎりくだいてしまった。


「どうやって雷をよけたのか、答えを教えておこう!避雷針というものは知っているな?」


「で、電気の通り道をつくったんですか?」


「土の中に含まれていた砂鉄と水を組み合わせて、とっさに作ったのだ。これを針金のようにのばして地面につき立てれば、電気は地面に吸い取られると言うわけだ」


 くだかれた杖のはへんが、ゲオルギィの言う通りに針金のようにまっすぐになっていく。


「こわっぱ。お前は本職でも下級の魔導師よりよほど手ごわいぞ。素直にほめておこう」


「え、そ、そうだったんですか?!」


 と、ゲオルギィにほめられて、思わずてれてしまうユウト。ユウトはまっすぐ素直な性格だから、こういった状況でも素直に顔に喜びが出てしまうのだ。


 だがその時、背中で異変が。


「ごらぁ。敵にほめられて照れてどうする!?」


「ク、クーラリオ?!もう起きちゃったの?!」


 背中で力つきて眠ってしまったはずのガクが目を覚ましてしまったのだ。


「ばっきゃろう。あんだけ乱暴にゆすられて、おちおち眠ってられるかってんだ」


「ごめんね。今度はちゃんと静かに戦うよ」


「それは良い心がけだ。ならば、私の手で静かにお行儀よくほうむられるがいい!」


 ゲオルギィがかざした手のひらから炎の帯が叩きつけられる。ユウトはあわてて飛び上がってそれをよけた。


「オレのことは気にするな!とにかくあいつを止める事だけ考えろ!」


「わ、わかったよ!」


 真下から打ち出される岩石の逆さ雨を、ユウトは夜空の中をひたすらに逃げ回ったのだった。


 はげしい戦いは何十分も続く。


 押しているのはゲオルギィのほうで、ユウトはとにかくよけるか、バリアをはって防いでいるばかり。


 ゲオルギィも時間を気にしているようだったが、もっと気にしていたのはユウトの方。なにせ日が昇ってしまえばみんなの命が消えてしまうのだから、あせってしまうのも無理はない。


「もうやめてください!」


 ユウトはたくさんの水を頭上にあつめておしかためる。それをするどくとがったヤリの形にすると、音よりも速い速度で投げつける。


「何をやめろというのだ!」


 ゲオルギィは山肌をこぶしで殴りつけた。すると殴りつけた場所が噴火するようにもり上がり、その姿を恐ろしい竜のように作り変えた。


 土の竜はユウトの投げた水のヤリを口で受け止めてそのまま飲み込んでしまう。それどころか、今度はユウトめがけて大きな口を開いておそいかかってきた。


「みんなから取り上げた命の光を使ってやろうとしていることです!」


 ユウトはタクトを持った手に、思い切り力をこめる。火のブレスレットがまっ赤に光り輝き、タクトから巨大な火柱をふきださせた。


「それ!」


 ふきだした火柱を、扇子のように広げたユウトは、その炎の扇子で土の竜の頭を叩く。


 巨大な炎に焼かれた土の竜は、バラバラにくずれおちて元の土くれにもどってしまった。


「まだまだ!」


 返す刀でユウトはその勢いのままゲオルギィに殴りかかる。


「私が行なおうとしている崇高な儀式が何なのか、それを知っていて止めようとしているのかね?」


 ゲオルギィは振り下ろされた火柱を、両手を広げてしっかりと受け止めている。その手のひらには水の魔法がかかっているらしく、受け止めた手からじゅうじゅうと湯気がふきだしていた。


「あなたが何をしようとしているのか、ボクは知りません。でも、どんなに立派な事でも、たくさんの人の命を使ってやるようなことは間違っています。絶対に!」


「それはきれいごとだな!」


 さらに力強く押さえつけたユウトの火柱を、ゲオルギィは乱暴に投げ返した。


「命の価値がどれも同じというのが間違いなのだ。まして使うのは下等な地上の人間のものだぞ?価値ある使い方をしてもらうことに感謝すべきぐらいなのだ」


「こ、この人、一体何を言っているの?」


 信じられないようなゲオルギィの答えに、おどろきとまどってしまうユウト。


 確かにTVや映画やマンガで、同じことを言うような悪人は大勢いたけれど、それは全てお話の中だけのこと。でも目の前のおじさんはそんな恐ろしい事を、しっかりとはっきり口にしていたのだ。


「考え事ができるとは、余裕があってよろしい!」


 一瞬のスキをゲオルギィは見逃さなかった。目にも止まらぬスピードで飛び上がると、ユウトの真正面で姿を現す。


 そしてユウトと目と目を合わせた直後に、あらん限りの力で、ユウトの胸を殴り飛ばした。


「!」


 声も出せずにユウトはまっ逆さまに山のふもとに叩きつけられてしまった。とっさにクーラリオをクッションにしないように体をひねったが、体は地面に激突。まるでバスケットボールのように二回、三回と地面をバウンドして斜面を転がる。


「けほっ!けほっ!」


 胸の痛さにむせてしまうユウト。それでも、水のマフラーが守ってくれたからそれくらいのダメージですんだのだ。


 けれどもユウトはふらふらとしながらも立ち上がった。うっすらと涙ぐんでしまっていたが、痛さで泣きくずれたりはしない。


「ま、負けるもんか」


 ゆっくりと目を開いたユウト。だがその目に飛び込んできたのは、弓なりにしなったゲオルギィの丸太のような足。


 とっさに両腕が反応して体をガードするが、よけることはできなかった。腕の骨がこなごなになってしまったような、はげしい痛みと同時に、ユウトの体はサッカーボールのようにはね上げられた。


「……っ!」


 声も出ないほどの痛みが体をつきぬけた。するとその衝撃で背中に背負っていたはずのクーラリオが、体からはなれて宙に。ユウトの意識は今にも消えてしまいそうになっていたが、それでも夢中でクーラリオを両手で抱きとめた。


「背中が今度はおるすだぞ」


 はね上げられた上空、ゲオルギィはそこに先回りしてユウトを待っていた。そして今度は両手を組んで、上から下にさかさまにユウトの背中めがけて乱暴にトス。


 ユウトの体はバレーボールのように山頂にたたきつけられてしまう。体中で岩肌をガリガリと削りとり、まるで畑のようにたがやしながらユウトは転がると、祭壇の前でようやくその勢いが止まった。


「ふむ、私としたことが、自分の手で祭壇をこわすところであった。これはいかんな」


 ゆっくりと着陸したゲオルギィは、余裕の様子でガラクタのように転がっているユウトに近づく。だが、ユウトはそれでも立ち上がった。


 マジカルジャケットはズタボロになり、泥と血だらけになってボロぞうきんのよう。体の方は手足の骨は何とか折れもせず無事だったが、ひどい打ぼくとすりキズで見るにたえないくらいにボロボロになっていた。


 けれども口から糸のように血を流しながらも、ユウトはクーラリオを左のわきに抱え、しっかりと立ち上がったのだった。


「負けるもんか。みんなを助けるまでは、絶対に、絶対に……」


「見上げた根性だこわっぱ。いや、ユウト!」


 パンパンと手を叩いてユウトのガッツをほめたたえるゲオルギィ。


「だからこそ、このまま無意味にお前の命をもみ消すのは惜しいのだ。いいかげんにあきらめて、その命をさしだせ」


 ゲオルギィの目は、光さえ飲み込んでしまうような赤黒いうずがぐるぐると回っていた。だが、ユウトはひるまない。


「ボクなら、ボクだけならそれでもかまいません!でも、みんなを元通りにするのが先です!」


「それはできない相談だ。なぜなら質が悪くても、できるだけたくさんの種類の命の光を集めなければ、私の望みははたせないからな」


「それで本当に息子さんが生き返るって思っているんですか!」


「思っているとも。いや、確信しているのだ!」


 ユウトは右手の方にあった祭壇を見た。


 そこには体育座りをした人くらいの大きさの岩がきっちり十三個つみあげられた塔が四つ建てられていて、そのてっぺんにはガラスのようなバリアにとじこめられている小さな光の玉がいくつも。


 さらにまん中には絵のようなふしぎな文字が書かれた魔方陣。そして中央には棺おけらしいものがすえつけられていた。


「これが生き返らせる儀式のための祭壇……」


「私の理論の集大成だよ」


 満足そうに、不気味なほほえみを浮かべるゲオルギィ。


「私はあまりにも理不尽に死んでしまった息子を生き返らせる事に全てをそそいできた。それまで積み上げてきた努力と、その結果手に入れてきた輝かしい栄光の全てを投げ捨てて!」


 ゲオルギィは両手を天に振り上げ、世界中のすべてに言い聞かせるようにさけんでいた。


「それでたどりついた答えが、ほか人の命の光を使って、死んだ人間を生き返らせることだったんですか?!」


「その通りだ!」


「で、でも!人の命の光は、それぞれの人のものだから、他人の光じゃ長く持たないってマーダルさんが!」


 ユウトはマーダルから言われていたことを思い出す。


「そう。これまでのやりかたではそうなっていた。けれどもそれはちがう。私はようやく答えを導き出せたのだ」


 ゲオルギィはゆっくりと祭壇の方に歩いていく。


「まず私は医者になって仮説を確かめたのだ。病気で消えかけた者の命の光に、動物の命の光に手を加えたものを与えて、最初は数日。やがて一年、二年と寿命を引き伸ばす事に成功した」


 けれどもそれは魔導界でも絶対にやってはいけない重大な犯罪。魔導協会は命の光をつかった実験、治療をかたく禁止している。

 それは魔導師が、人間が魔法と精霊の力を使うときにやってはいけないことだと決められていたからだった。


 しかし、それを知っていてゲオルギィは実験を重ねていた。ゲオルギィはその決まりをやぶったのだ。


 命の光は加工しだいで、移す相手と同じ色にすることができると考えて、まず動物で行なった命をのばす実験に成功したのだ。動物で成功したのなら、人間にもできるはずだと。


 ゲオルギィは死んでしまった人間の命の光を復元できれば、生き返らせることさえ夢ではないと考えたのだ。


「そしてそれを実証するために、私は本当に生きている人間の命の光を使おうとしたのだよ。すでに一度な」


「ええ?!」


 それがゲオルギィが捕らえられた一番の理由だった。


「そう。命の光にはっきりとした色がついていない子供のものを使えば、楽に加工できるはずだった。だが、どこでもれてしまったのか」


「本当に実験をはじめる前に、つかまってしまったんですね」


 話を聞き終えたユウトの頭は、グツグツとにえたぎったスープのようになってしまった。


「どうしてそんなことを?!子供を失うことがつらいと思うんだったら、どうして同じ事を他の人にしようとしたんです?!」


「私にとっては息子の命より大切で尊いものなどありはしない!それ以外の命など、どうなろうと知ったことではない!」


「そ、そんな!」


 その答えはユウトにとって、いや、人として絶対に受け入れられない事だった。


「たしかに私は実験をやろうとしたことを協会にかぎつけられて途中で阻止され、そして捕われてしまった。そこで私は反省した。次に行なう時は、もっと目立たないように、そしてもっと慎重にやらねばならないと。だから協会が文句を言ってこない地上界に来たのだよ」


「え?!文句を言われないってどういうこと?!」


「ほう、いたらぬ知識ばかりためこんでいたおしゃべりなガラクタ人形から、そのことだけは聞かされていなかったのか」


 ギチギチと、もがくように動き出すクーラリオ。それをユウトに聞かせまいとしているようだったが、ゲオルギィがすぐに答えた。


「魔導界の者が地上界で一番やってはならないことはな、魔導界の事を地上界の人間に知られてしまうことだ」


「そ、それはどういうことなの?」


「ユウトよ良く聞け。魔導協会は、いや、魔導界の住民は、地上界の人間の命ごときは何とも思ってはおらん」


「そ、そんな……」


 ユウトが動転しているのを確かめながらゲオルギィは続ける。


「言っただろう?地上の人間に知られなければ、何をしてもよいと」


 ユウトは泣き出しそうな顔でクーラリオの方を見た。


「クーラリオ!うそだよね?!この人の言っていることはうそなんだよね?!」


 けれどもクーラリオは答えない。いや、答えられなかった。


「答えられんだろうな。なぜならそれは事実だからだ」


「……。ユウト、すまねぇ」


 ようやく口を開いたクーラリオの言葉を聞いた時、ユウトの顔は凍りついたように固まった。


「地上界にいる人間は魔法もつかえない下等な者たちだ。そんな者たちがどうなってしまおうと、別に構わないのだ。魔導界の事が知られてしまうくらいなら、記憶を消すどころか、殺してしまっても罪にはならんのだよ」


「うそだ!」


「うそではない!事実、マーダルがどんな理由で私を捕まえに来たか知っているのか?脱獄と無許可で地上界に行った罪だ。命の光を用いた儀式も、相手が地上界の人間であれば、何の問題もない。そうだなガラクタ人形!」


 おそるおそるクーラリオの方を見るユウト。けれどもガクは先ほどまでのケンカ腰で威勢のいい様子もなく、だんまりとしたままだった。


「そんなのまちがってるよ!」


 ユウトは叫んだ。お腹の、いや、体の底から力いっぱい大きな声で。世界中にひびけとばかりに。


「人の命はみんな同じくらい重くて大切なんだよ!魔法が使えないからどうなってもいいなんて、そんなのまちがっているよ!」


 もう魔導界のルールなんて知ったことではない。まちがっていることはまちがっている。ユウトの悲鳴のような叫びが、クーラリオの胸をえぐりとった。けれどもゲオルギィにはどこ吹く風。


「そう言うのはお前の勝手だ。だがなユウト、マーダルがなぜお前にその力を分け与えたのか、本当の理由は知るまい?」


「本当の、理由?」


「お前がうすよごれた地上の人間のなかでも、めずらしいくらいにお人好しでだましやすいと見抜いたからだ」


「うそだ!そんなことあるもんか!」


 さらに動揺し、心が乱れているユウトをさらに揺さぶるゲオルギィ。


「うそではない。でなければどうしてお前のような臆病者がえらばれなければならなかったのだ?」


 ユウトの動きが止まる。


「マーダルはこの地上に来る前に、私の張った罠にかかって地上に長時間いられないようになってしまった。だが私を捕まえるという仕事を果たさなければならなかった。その時、目についたのがお前だったのだ。命の光をぬかれた人間のなかでも、自分に都合よくだまされてくれるお人好し。だから利用したのだ」


「そ、そんな……。あのやさしそうなおじいさんが」


「い、いいい、いいかげんにしやがれ……!」


 言葉をさえぎろうとしたクーラリオに、ゲオルギィの空気弾が飛ぶ。クーラリオははじきとばされて山の斜面をゴロゴロと転がり落ちていった。


 けれどユウトは身動き一つしない。いや、できなくなっていた。受けたショックの大きさでスキができたところで、他の事に注意がむかないように魔法をかけられてしまっていたのだ。


 そしてユウトの意識がむくようにしむけられていたのはゲオルギィの言葉。ユウトはまんまとゲオルギィの術にはまってしまったのだ。


「この私をつかまえて、つき出したところでお前の役目はおしまいだ。言っただろう?地上界の人間に魔導界のことを知られるのは、それ自体が罪なのだ」


「だが命の光を戻さなければ、この事を知る地上界の人間はいなくなる。わざわざ生き返らせてから記憶を消す魔法を使うより、全てを知ってしまったお前が日の出と一緒に死んでしまったほうが、魔導界の事を秘密にしておくのは手っ取り早い」


「……」


「……ふざけるなぁ!マーダル様がそんなことをするものか!」


 今度は言葉だけでなく、視界もさえぎろうとクーラリオが残された力をふりしぼって飛び出してきた。


「オレ様はマーダル様の心の一部を写し取って作られた使い魔だ。マーダル様の心も考え方もしっかりわかっているんだ。そのオレ様が言うんだ。だからユウト、そんなヤツの言う事を信じるなぁ……」


 だが、動揺をかくしきれないユウト。もう戦う意欲もなくなり、頭を抱えてただ立っているだけのぬけがらのようになっていた。


「しょせん子供、ということだな」


 ゆっくりと近づくゲオルギィ。その姿を見るユウトの目はうつろで、まるであさっての方向を見ているよう。


「そろそろ夜明けだ。余興もここまでだ」


「や、やめろ」


 くちばしを立てて抵抗するクーラリオを無視してユウトのえり袖をつかんで持ち上げるゲオルギィ。精霊たちはユウトを守ろうとバリアを張ろうとするが、肝心のユウトがぬけがらのようになってしまっては何もできない。


 ユウトの体を両手で抱え上げたゲオルギィに、ふと、ものさびしい気分がよぎった。


 この戦いはユウトにとっては命がけだったが、ゲオルギィにとってはまだまだ本気になりきれていない、本当に余興、遊びのようなもの。


 だから。だからこそ思い出してしまう。


 息子が生きていた時、自分は息子にどう接していただろうか?


 生活を良くするために魔法の修行と研究にあけくれて、息子と遊んだりすることができなかった。いや、できたはずだったのに、遊んでやろうとしなかった。


 自分の仕事、やるべきと思った事だけにうちこんでいるほうが楽だったからだ。たとえ妻を病気で失い、息子と二人だけになってしまったときもそれを変えなかった。変えられなかったのだ。


 そして息子はさびしいのを忘れようと遊び相手をもとめて山深くに入っていき、そこであやまって命を落とす事になってしまったのだ。


(そう、息子を死なせるきっかけを作ったのはこの私なのだ!)


 ゲオルギィが行なおうとしていたのはその罪ほろぼしだった。息子を再びめざめさせ、今度はさびしい想いをさせない。そんな親心だった。


「さらばだ、ユウトよ」


 息子を抱え上げて、楽しませてあげるべきだったその両腕は、今まさに息子と年近い少年の命をうばおうとしていた。


 夜空に向って放り投げられたユウト。その体にはわずかな力も残されておらず、だらりと力なく宙を舞う。それに向ってゲオルギィは、まっ赤に燃え上がった、しゃく熱の大きな岩石を発射した。


「ユウト、よけろぉ!」


 だが、クーラリオのさけびもむなしく岩石はユウトを直撃。ユウトの体は、はげしい炎につつまれた。


「う、うわぁぁ……。ユ、ユウトぉ……」


 ぼろぞうきんのようになったユウトの体は、祭壇の前にゴムボールのように叩きつけられた。体がはね上がった時、ユウトの体からキラキラ光る破片が飛び散る。


 それは、精霊たちが契約の印としてユウトに与えたアクセサリーの破片。精霊たちは最後の力をふりしぼってユウトを守り、力つきてくだけてしまったのだ。


「最後の最後まで私に抵抗するとは。まったく見上げた精霊たちだ」


 とびちった破片が、精霊たちの姿に戻る。フーガも、ミズチも、エンジュも、アダマントも、みんなみんなキズつきボロボロになり、身動き一つ取れなくなっていた。


「どれ、身動きも取れなくなったのであれば、儀式の役に立ってもらおう」


 ユウトはうっすらと目をあけた。体中がバラバラになったような痛みが走り、首を動かして息をするのがやっとというありさま。そのかすんだ視界の向こうで、精霊たちが次々と儀式の塔に投げ込まれていく光景が目に飛び込んできた。


「や、やめろぉ……」


 だが、ようやく声を出した時には、すべての精霊たちが、悲鳴とともにが塔に取り込まれてしまった後だった。ユウトの目から、くやし涙がこぼれおちる。


「ボクが迷っちゃったばっかりに、精霊さんたちが、精霊さんたちが……」


「後悔先立たずということだ。勉強になったな、ユウト」


 ユウトの髪の毛をてっぺんからわしづかみにして持ち上げるゲオルギィ。


「君が敵である私の言葉に心を乱してしまったからこうなったのだ。敵の言う事に、いちいち耳を貸すのも考えものだぞ」


「……っ。やめろ、やめろ、やめろぉ!」


 もうユウトは自由に指を動かす事もできない。ただ、何もできずにされるがまま。


「君もこれで終わりだ。君が分けてもらったマーダルの命の光をいただこう」


 ユウトのほほから、きらりと光った涙がこぼれおちた瞬間、ゲオルギィの右うでがユウトの胸をつらぬいた。体にキズはなかったが、その手には他のものより何十倍も光り輝く光の玉がにぎられていた。


「これで準備は整った。ユウト、君はのこり少ない最後の命で、私の儀式が成功する様子を見届けるがいい」


 手を離されたユウトの体は、糸の切れたあやつり人形のように、その場にばたりと倒れこんでしまったのだった。

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