第8話 花の名は

この話には、

実は奇妙な後日談が一つある。


私は医師から勉強をやめろと言われても、聞かず受験勉強し、


内申が悪くても受けられるトコを探して、


通学に2時間かかる普通科の公立高校を、単願受験で受けて合格した。




その高校は担任のA藤先生の自宅の近くだった。


A藤先生は私が高校生になったその年、自宅に近い中学に転任した。


独身のA藤先生と高校生になった私は交流が続き、やがて恋人になり…。


ということはなく、A藤先生と交流が続いたのは本当だが、


それは、知りたくもないおぞましい事実になって、返ってきた。




A藤先生は転任後ほどなく結婚した。



そして、転任先の中学で、家庭に問題を抱えて


心を病んでいたヒロノちゃんという教え子を、買春するようになった。




私は、A藤先生からヒロノちゃんを紹介され、彼女の受験の相談に乗っていた。


あるとき、ヒロノちゃんから


「A藤先生、メグミ先輩のことも、


中学の時にいつかクルマでヤってやるつもりだったって、言ってましたよ。


あの人って、病んでいる少女がほんと、好きなんですよ」


と聞かされた。



それっきり、私はA藤先生には会っていない。


その時、私は


信じていたものが壊れる悲しみは、ちゃんと感じられるんだなと、


そんなことを思った。



それにしても、どうして私は、A藤先生の車で嗅いだキンモクセイの幻の香り、


あの禍々しさに何も気が付かなかったのだろう。



もしかしたら、私はあの時、学ぶことを奪われてでも、学校から離れたことで、


知らないうちに、人生を歪められることから救われていたのかもしれない。






そういう意味でいえば、ヒロノちゃんは、救われなかったもう一人の私だ。


ヒロノちゃんは、私にとって、ずっとかわいい後輩だった。



けれど


その後もいろいろ大変なことがあって、彼女は23才で自殺した。



その時のヒロノちゃんの職業は、SM嬢。


ハードなプレイをこなすM女だったと、


葬儀場で私は聞いた。



その祭壇には、ヒロノちゃんの好きなキンモクセイが、


いっぱいいっぱい咲き誇っていた。



彼女が死んだその年、国内の結核患者の罹患率が43年ぶりに増加した。


そんなニュースが流れたのは、本当に偶然なのだろうかー。

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soul of panic maker《ソウル・オブ・パニック・メーカー》 真生麻稀哉(シンノウマキヤ) @shinnknow5

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