第4話 出どころ不明

このコテージでの出来事は決定打になった。


クラスメイトにも影響が出るからと、学校から休学を勧められた。


「受験の大事な時期に休学なんて」

と私は必死で抵抗した。


授業を途中で退出するため、もう私の成績は

高校に進学するのに、ぎりぎりのところまで来ていた。


私は、本を読むことが好きで、

大学、ゆくゆくは大学院まで進学したいと願っていた。


どうか一人だけ、別の教室で授業は受けさせてもらえないかと


担任のA藤先生を頼って、校長や教頭に頼み込みさえした。


その進学についての相談の場で、興奮した私は、激しくむせた。



「ケフンケフンケフンケフン」


奇妙な咳が出て、止まらなくなった。


息が、息が、息が苦しい。


咳こみながら、


「学校に、どうか学校に行かせて!!」


と叫ぶ私はまるで悪鬼のようだった。


その迫力に押されてか、

とりあえず、休学の話はいったん収まった。


しかし、私の咳は、一向によくならず、ひどくなるばかりだった。


その日、私は班で机を囲んで、給食を食べていた。


全身を見えない虫がじょろじょろじょろ、這いまわっている。


叫び出さないようにブルブル震えて、シャーペンの先で、

じくんじくんと、強く腕を刺す。


その一方で、


「ゴフンゴフンゴフンゴフン」と


ハンカチで押さえても耳障りで、肺がむずむずするような咳が次から次へとせりあがってくる。



「ゴフッ」


咳にむせた大きく瞬間、口の中で血の匂いがした。



気づくと、パアッと、ホワイトシチューに血が飛んでいた。


私はそれを隠そうと、慌ててシチューの皿の載った給食のお盆に体を伏せた。



しかし次の瞬間、「O関さんが、シチューに血を絞り入れている!」


という向かいにいた子から、声が飛んだ。


「呪いの儀式だ!」


と誰かわからない、男子の声がした。


違う、違う。


そう言おうとした私の口から、


「カフンッ」と咳が飛んで、また血が飛んだ。



きゃああああっ!


いやああ~~!


クラス中に、悲鳴が響いた。




そのまま、大病院の耳鼻咽喉科に連れていかれて、


そこで私は


「結核の疑いあり」


と診断が下った。



当時、日本でほぼ根絶していたはずの結核菌。


診断した医師は、


それによく似たものが私の血液の中にある、と言う。


県外にある専門の研究所に精密検査に出すと言われ、


私は何が自分の身に起こっているのか、


まるでわからなかった。


文学も歴史も好きだった私は、


太宰治がかかった結核、新選組の沖田総司の死因になった結核を、よく知っていた。


死病と恐れられた結核菌。


普通の中学生の私が、


どこで、いったいそんなものに感染するというのかー。


まさか、昭和初期に死んだ幽霊から結核菌をもらったとでもいうのだろうか―。

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