第3話 血まみれキャンプ

そんなある日、学習合宿があった。

班に分かれてのコテージに泊まり込んでのキャンプ式合宿。


夕飯のあと、

ホールで、スライドを見ていたときだった。


前にいた子が、目の前に虫が飛んできて、とっさに身を引いた。


その瞬間、彼女のひじが、


ゴツッ


と私の鼻に当たって、私は鼻血を出した。


ホールの床にみるみる血だまりができ、

私の鼻血はなかなか止まらなかった。


保健室替わりの先生のコテージで、1時間近く横になって

やっと鼻血がとまったので、私は自分の班のコテージに戻った。


その瞬間、



パシッ



と高い音が鳴り響いた。


霊がいる時に聞こえるというラップ音だ。



パシッ



ピシッ



その空間にむちを打つような音は、

激しさを増し、


ひっきりなしに、鳴り続けた。


ピシッ


パシッ


ビシッ


それは本当に、


女の人が鞭でひっきりなしに打たれている


そういう淫靡いんびな響きをもって、執拗しつように続いた。



「やだ、怖い」




周りの女の子が耳を塞ぎ、


口々に


「やめて!」


「誰かこの音を止めて!」


「消えて!」


と叫び、


恐怖にかれて泣き始めた。



私は、自宅でも学校でも、こういうラップ音を聞きなれていた。


それは古くて立てつけの悪い自分の家や

古い学校の校舎だから聞こえるものだと思っていた。


(そうか、この音はみんなにも聞こえているんだ)



とひどく不思議な気がした。


そのうち、ラップ音に混じって、



「バウン」



「バウン」



「バウン」


とボールが壁を跳ねる音が、コテージ内に満ち溢れた。



それは笑えるくらい人間臭い音だった。


私は、


ああ、幽霊がボール遊びしているんだって、思ったくらいだ。



けれど、私以外のクラスメイトは


むち打つような音と


ボールの跳ねる音の二重奏に


みな耳をふさいで大泣きし、


「いやああああああ、


このコテージで寝るのはいやああ」


とパニックになって、


コテージは恐怖のるつぼと化した。



やがて、クラスメイトの一人が先生のコテージに駆け込んで、


やってきた先生が、一晩中、そのコテージにいることになった。


この班の全員を移せるような、空いているコテージは他になかったからだ。



みな、私にこのコテージにいてほしくないという、


恐怖の目で、私を見ていた。


「メグミちゃんが出ててってよ!」


そう、はっきりなじられなかったのは、


そんなことを言えば、さらに恐ろしいことが起こるんじゃないかと


みなが怯えていたからだ。


私はせめて何か役に立とうと、押し入れから


先生用の布団を出した。


「ずるり」


「きゃああああああああああああああ」



私が引きずり出した布団には、古い血の染みがべっとりとついていた。



「ぎゃあああああああああああああ」


先生も一緒になった絶叫の中で、



「生理の血かもよ。


あ、それか初めてのHをしたカップルの血かも」


と私は言ってみたけれど、誰も私の言葉を聞いていなかった。

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