其ノ碌話「怪奇・洋猫の館伝説」双雙
「なんだこの風呂の配置は・・・」
露天風呂から入って
内湯を求めて開けたはずのドアの先がもう1つの露天で
さらにドアを開けると大浴場
そしてその先がもう1つの脱衣場
…それも、とてもよく記憶にある
そう、この町に来た時に入った
あの因縁の自販機の温泉だった
たしかにこの内湯なら湯治場としてふさわしい大きさだ
だが何故こんな面倒な作りになっているのか
俺は思い切って朝食の際に琴美に聞いてみた
「えー? そうですね~ 面倒な作りかもですけどー」
キョトンとした顔の琴美が答えた
「いや、そうじゃなくてさ、 なんでこんな形になってるわけ?」
「うちのおじさんが通ってた時期にはもうこんなんだったって聞いてますよ~」
琴美はにこやかに 麦飯をよそってくれた
「なんかさぁ、不思議な作りだよねぇ 」
納得の行かない俺はモグモグと麦飯を噛みしめる
「あー、なんか大昔にこの辺で災害があったようで
それで改築したって話を聞いたような」
どう見ても女将の雰囲気の下働きのおばさんが答えた
「なんでも昔はこの旅館自体が珍しい作りで
たくさんお客が泊まり込みできたそうですよ
名物の観光地だったようでねぇ」
名物? どう見ても今は名物とは無縁の雰囲気しかない。
それにこの古い旅館も佇まいはそれなりだが
珍しいと言う程の作りでもないと思った
昔はこんなに大きな建物がなかったせいか?
おばさん自身も前に務めていた古株の従業員に聞いたと言い
自分はその時代のことは知らないと言う
災害か、、、大水か、地震か それとも大火か
いずれにせよ開拓当時ならば何があってもおかしくない
「郷土資料館でも行ってみるか」
「ああ、郷土資料館はふるさとセンターの中ですよー」
ニセ女将の琴美が笑顔で教えてくれた
「ふるさとセンター?」
「熊離別健康センターの隣の、図書館と一緒の建物です」
ああ、思い出した
この宿を紹介された際の
あの宿泊所前で看板を見た記憶が蘇った
しっかり食後のコーヒーまで飲み干し
「熊離別のくぅちゃん饅頭」まで平らげて
俺は町への道を急ぐ事にした
急げば昼過ぎには戻れるだろう
「あ、先輩~ 今度車を停める時は
大浴場側の駐車場がいいですよ
町側から近いですしー
ほら、ちょっと道は荒れた感じですけどー
私もよく使ってるんですー」
そうか、最初の日に30分程でつきますよと
あの支配人が言ってた道はそちらだったのか!
「と、言うことはこの宿に至る道は
2箇所あるんだね?」
「そうそう、旧道と新道なんですよー
旧道のほうが早いので使ってますけど
もう少し道を整備してほしいんですよねー」
琴美は口を尖らせて話した
使うのがこの宿の人間くらいだとまず整備などはされないだろう
大昔にあっただろう災害
そしておそらくはそれがこの宿が寂れた理由なのだろうか
謎のかけらが見えそうで、
今は早く向かう事だけを考えて車に乗り込んだ
「なんだか面白い事がわかりそうだ」
俺は珍しく自分の胸の鼓動が弾むのを感じた
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