第13話
その後のことは青山家の記録には、こう伝わっている。
その日、娘のお菊に会いに青山の屋敷を訪れた丹波守は茶を飲んだ途端に、激しい悪心を訴え、七転八倒の後、頓死した。
当初、青山が毒を盛ったと嫌疑がかけられた。
茶器に鉄瓶、青山と青山の家は徹底的に検められたが、毒はどこからも見つからなかった。
むろん井戸水からも毒は出なかった。
その騒動の間、青山には何が起こっているのか、まるでわからなかった。
そうであろう、井戸桶の中、お菊の拵えた雪兎の溶けた水に毒は入っていたのである。
あの雪の朝、お菊は雪兎に毒をまぶし、それを食べて死ぬつもりであった。
この世には死よりも辛いことがあるという女の一念が引き起こした椿事であった。
時は流れ、青山の家は現在まで続いている。青山の屋敷があった場所には、大きな廃井戸があり、その傍に「おきよ」と書かれた小さな墓が立っている。
流れるような達筆の崩し字で書かれたその「おきよ」の文字は、「おきく」とも読めるようである。
皿の雪 真生麻稀哉(シンノウマキヤ) @shinnknow5
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます