第6話

どぷっ、どぷっと足元から突き上げるように戸板はやけに揺れる。


まるで青山を冷たい井戸の中に引きずりこもうと、お菊が戸板を叩いているようだ。


気を抜くと、


(この戸板の下にはお菊以外にも、黒く蠢く何かがいる…)、


そんな妄執に心の臓を握り潰されてしまう。


正気を保つのだ、と青山は我が身を叱った。


そろそろ頃合いか―、まっすぐに水から引きあげた帯を、そのまま両手にぶら下げて立っていた青山は帯を確かめた。


思った通り、がちがちに凍っている。


それに褌を縛り付けると、今度は褌をまっすぐ垂らして水につけた。


これが凍れば、帯と合わせて長い長い氷の竿が出来るだろう。


声が届かぬのなら、井戸の口の傍で音を立ててやるしかない。


この氷の竿で釣瓶の桶を叩き揺らせば、その音や不審な様子に庭を通る者が気づくかもしれない。


青山はそろそろと、凍りついたその竿を天に向かって突き出す。


桶まであと少し…。

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