エピローグ

「世界を正すためさ」

 一週間前。そいつに神になった理由を尋ねると、そんな答えが返ってきた。

「ディーテに唆されたわけじゃない。自分の意思で決めて、計画も実行した」

 そう言って弱弱しく笑った男は、小さく言ったのだ。

「ありがとう」と。

 何に対しての言葉だったのかはわからない。けれども、その真意を確かめるよりも前に俺の口は意志とは関係なく動き始める。

「なぁ、エスト。折角結合が済んだんだ。新しゲームでも始めようじゃねぇか。お前の作ったクソゲーに変わる、新しいゲームをさ」

 人間界で培った知識を存分に使い、ルールとその仕組みそのものを変えた。

 その後、自分が神になる為にこの手でエストを殺した。

 俺は神になり。それと同時にゲームマスターになった。

 端末、バングル、仮想空間。そのすべてを管理するのにはやはり膨大な魔力が必要。人間界の時間で一週間は持ったが、一週間しか持たなかった。

 参加者が思いのほか増えてしまい、減らすために因縁のある犯罪者たちを使った。

 それでも、ダメだった。

 体は動かず、伸びてぼさぼさの髪はストレスにより白く変色。不思議と空腹と眠気は感じない状態。

(ほんと、なにやってるんだろうな)

 体はこんな状態なのに、意識は無駄にはっきりとしていた。

 魂の変質が起きたから、と考えれば荷が下りる。けど、現実はそうじゃない。俺の魂は初めから変質していない。

 ルノとセミルは変わっていたが、俺は正常。

 本能はしっかりと理性を抑えていたのだ。抑えるほど力と冷静さを持っていたのだ。その二つでもどうしようもなかった問題。体内から体外に溢れる強大すぎる魔力だった。

 何の作用か、今まで以上に自身の魔力が高まってしまったのだ。

 結果。力に飲まれた。

 魔力そのものに意思はないが、体は魔力に操られる形で動かされていた。シュミルを撃ったのも、それが所以だ。

 とりあえず、このままではいけないとゲームを一時中断することにした・

 体はすでにゲームの制御システムから解放されている。

 力に飲まれた体が意志に従ったのも、体に限界が来ていたからだろう。

「さーて、どうなるかな」

 俺は今、神だ。

 様々な奴からヘイトを集めたどうしようもない神様。

 人間界の神々は侵食されている人間界を取り戻そうとしている。

 それでいい、正解だ。

 俺は、その時が来るまで休ませてもらうとしよう。

 ゆっくりと、目を閉じる。

 次に俺が目を覚ますのは、空間の分裂が始まった時だ。




『エデン』からほど近い所にあるつぎはぎ島『パッチラップ』。

 複数の小さな島を合わせ、建物全体の密度が高く、遠目から見ても道らしい道はない。けれども見えないところで複雑に道が絡まった島。

 住んでいる種族は主に天使族。高い位置に建物が多くあり、多くの天使族が飛び交う。

「待て!」

 普段は争いも起きないこの島に、今日は珍しく怒号が響いていた。

 軍服に身を包んだ複数の男たちが、一組の男女を追っている。

「なんで来た瞬間に追われているんだろうな」

「・・・心当たりなし」

「だろうな」

 ゾイルと優衣である。

 優衣を脇に抱えて、ゾイルは複雑に入り組んだ道を駆ける。たまに途切れているのを飛び越え、対岸に渡る。

 右へ左へ曲がり、平坦な道を走っていたと思えば何度も上へ下へ移動している。

「なんだよこの島!」

ゾイルは思わず叫び、足を止めた。

「やっべ」

 行き止まりだった。

 前も左右も、上までもが壁。そして、背後には道を埋め尽くす軍人。

「追い詰めたぞ。大人しくお縄についてもらおうか」

 軍服の男はニヤリと笑った。

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