第3部~夢の中の探し人~

プロローグ

 夢を見た。

 明るくて、楽しくて、心が躍る。そんな夢。

 見慣れない森の中で、色とりどりの花々が咲き誇っている中で、蝶のように美しい羽根を生やした大勢の子供たちが私を囲んで舞っている。

 私もそれにつられて自然と体が動き始めて初めてここがどこなのか知りたくなった。

 私は近くにいた子供に「ここはどこ?」と聞いた。

 それに対して話しかけられた子供は何かを言った。言ったのだけれどうまく聞き取ることが出来なかった。

 もう一度聞こうという気は起きなかった。だって、答えてくれた子供が「そんなことはどうでもいい」という風に満面の笑みを浮かべていたから。だから私はここがどこなのかを聞かない。ただ流れに身を任せて踊り続ける。

 踊り始めてからどれくらいに時間が過ぎたのだろうか。5分くらいな気もするし、1時間以上たっているのかもしれない。それでも、疲れを感じることなく高揚感ばかりが高まっていく。

 こんな楽しい時間がもっと長く続けばいいと思った。終わってほしくないなと思った。

 そんなことを考えても始まったものには必ず終わりが訪れる。1日であっても、戦争であっても、生命だとしても。

 だからこの夢もいつかは終わる。

 ここにいる子供たちが舞をやめた時?私が躍るのをやめた時?ううん。どっちでもない。終わりはやめる前にやってくる。

 突然に。けれども必然的に。

 獣のような咆哮が空気を響かせて鼓膜を揺らす。それが終わりへの合図。

 子供たちは踊るのをやめ、それに倣って私も動きを止める。

 子供たちは何事かときょろきょろとあたりを見渡す。私も同じように辺りを見渡す。

 見えるのは、色とりどりの花々。絡み合う蔓。青々とした森林。その奥の奥が明るくゆらゆらと揺れていた。

 どこを見ても明るく揺れゆっくりと近づいてきている。あれは、火だ。

 森が燃えて私たちをゆっくりと追い詰めている。

 慌てた子供たちの数人が火のない空へと逃げだす。しかし、それは叶わずに戻ってきた。

 蝶のように美しい羽根は切り裂かれ、血を流し、絶命した状態で。

 何が起こったのか頭で理解する間もなくそいつは姿を現した。

 黒くて木の背丈をはるかに超える獣。

 それがひとたび口を開けば先ほど聞いた轟音が空気を揺らし、ひとたび右手を振れば森の半分が消し飛ぶ。

 楽しくて、明るくて、心が躍る。そんな夢のはずだったのに、恐ろしくて、暗くて、狂気に満ちた夢へと変わった。

 この先の顛末を私は知らない。

 夢とは覚めるものだから。

 いつもこのタイミングで私は目を覚まし見ていた内容を忘れる。

 夢とは大体そういうものだ。なのに、私は毎日のように同じ夢を見ては忘れる。夢が始まると見たことがあるなということを思い出しては、結末を知れぬまま目を覚まし、忘れる。

 何とも言えない喪失感に頭を抱えながらいつも私は再度眠りにつくのだった。

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