第2部~ミックスメモリー~

プロローグ

  聖魔大戦。

 それは、人間が自らの意思では決して踏み入れることのできない世界『アーウェルサ』で行われた戦争。

 悪魔の王を筆頭に、魔族が妖精の住む島『フェアリーアイランド』へ攻め込み、天使族を中心とした神民はそれに対抗して魔族と戦った。

 悪魔の王は、アーウェルサの住民が生まれながらに持っている特殊な力『魔力』とは違う、『詠唱術』を手に入れようとしていた。

 『詠唱術』というのはその名の通り決められた文章を唱えて発動する魔法である。詠唱術にできないのは蘇生だけだと言われている。しかし、効果が強力なものほど詠唱文は長い。

 それに対し『魔力』は、誰もが体に備えたものでそれぞれが決まった魔力の力しか扱うことが出来ない。利点としては詠唱することなく強力な力を扱うことが出来るというところにあるだろう。

 魔力は強いが決まったことしかできず、詠唱術は何でも強力なものも多い。その違いから、詠唱術は危険視され各種族は『秘術』としてその存在を公にはしなかった。

 ところが、悪魔の王は妖精族に伝わる秘術を知ってしまった。

 その術は世界を破滅に導く力がある。

 魔族たちは世界を手にしようとフェアリーアイランドを守る神民と戦った。

 大戦開始から2、3年は神民にも余裕があったが、時が経つにつれその数は減らした。逆に魔族はその数を増やし続けた。

 神民と魔族が戦っている間、他の種族は参加することなく遠巻きにそれを眺めていたという。

 そして、大戦開始から10年経ったある日、戦場に駆り出されていた神民は絶滅した。

 フェアリーアイランドを守るものもいなくなり、妖精族は秘術を永遠に封印し、魔族が手に入れるという事態は免れた。

 その後、妖精族は姿を消した。

 滅んだのか、それとも姿を隠してひっそりとどこかで生き延びているのか。それを知る者は誰もいなかった。


 そこまで読んで私は本を閉じた。

 聖魔大戦が起こったのは今から800年も前のことだ。

 平和になったアーウェルサで詠唱術が危険視されることはなくなった。

 詠唱術によって、水を扱うことのできなかった種族は水を操ることが出来るようになり、火を操ることのできなかった種族は火を操ることが出来るようになった。

 それを戦闘に使用しているのは、常に戦いに飢えている魔族以外にはいない。他の種族は家事などの生活のために使っている。

 大戦により封印されたという妖精族の秘術も、今ではその封印も解かれ誰もが使うことが出来るようになった。

 この本には『永遠に封印』と書かれているが、その永遠が800年で終わるなど誰が予想しただろうか。

 私はベッドから起き上がり、窓を開けた。

 夜風が広い部屋に入り込み、机の上にあった紙が舞った。

 窓から広がる景色は、街頭や建物の光で彩られた天使族の住む島『エンジェリング』の夜景。

 ここは平和である。

 けれど、詳しいことは知らないが全種族を統べる神、エスト・テリッサは人間界で物騒なことを始めたと耳にした。

 人間界に降り立った知り合いも少なくない。心配だ。

 そう思った私は、部屋に置いてあった護身用の剣を腰に下げ、窓から勢いよく飛び出した。

「姫様!お戻りください!」

 背後からじいやの呼ぶ声が聞こえたが止まるわけにはいかない。

 目指すは人間界。

 人間界に繋がるゲートをくぐろうとしたところ、エストに見つかるというハプニングはあったが、なんとか理由をつけ天使族の姫は1人、人間界に降り立った。

 殺し合いが行われているとも知らず。

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