エピローグ
最終決戦から3日
その間俺は多忙だった。
まずは、翌日。
死んだとされたタケさんの遺体を建物のあったところを中心に一日中探し回った末、喫茶店『メルゴ』に向かうといつものようにコーヒーを出すタケさんの生存を確認した。
どうやら死んだというのはムジナの思い過ごしだったらしい。
「ゴーレムの体じゃなきゃ死んでいた」
と、よくわからないことを言っていたが、傷はエストに治してもらったらしい。
莉佐も変わらずにバイトしており、そもそもタケさんが死んだということを伝えていなかったため、慌てて店に来た俺を何事かと見ていた。
その翌日。
「夏休みもそろそろ終わるから帰ろうかな」
そう言う玄魔をタケさんと共に、妹二人を連れて函館まで送りに行った。
ゲームのおかげでまともな夏休みを過ごせていなかった俺は旅行と称して楽しんだ。
五稜郭タワーにエレベーターを使わずに上り、ボリュームのある名物ハンバーガーを食べ、ルノも優衣もご満悦のようだった。
さらに翌日。
すっかり忘れていた優衣の転入手続きをしたその夜のこと。今までゲームを理由に全く手を付けていなかった宿題に追われていた。
「全然終わらねぇ。明日から学校だってのに」
しかし、そんな俺にお構いなしに二人の妹は騒ぎ立てる。
「奏太!一緒にゲームするぞ!」
「・・・お兄ちゃん、私も」
机に向かっているため2人の表情は分からないが、にこやかに笑っているのが想像できた。
「お前ら2人で遊んでろ!」
口を動かすよりも素早く手に持つペンを動かす。この際、字の汚さなんて気にしていられない。終わらせることを優先させる。
「奏太よ。そんなの、この答案というやつを見ればちょちょいじゃろ」
「・・・ちょちょいだよ、お兄ちゃん」
「答えを見て終わらせるよりも自分で解く方が速い」
「そうか。我ならもっと早く終わらせられるぞ?」
どういうことだ、そう聞く前にルノが詠唱した。
・・・なんだろう、とてつもなく嫌な予感がする。
「我は悪魔。ワーペル・ルノじゃ」
いつもと違うその雰囲気に思わず手を止める。優衣も驚いて口が塞がらないようだ。
「汝に3つだけ願いをかなえてやろう」
これは、古来より伝わる悪魔の取引だろう。
「さぁ、この契約書に名前を書くといい」
そう言って白紙を差し出すルノ。遊んでいるのだろうか。
「我が願いに対し望むものはただ1つ」
俺が3つ頼めるのに対しルノの求めるものは1つとは大変お得だが、命や魂と言われるのがセオリーだ。しかし、次にルノが言ったのは完全に予想外のことだった。
「・・・我と、ずっと一緒にいてくれ」
・・・は?
悪魔との絶対的な取引に一緒にいてくれなど、元アーウェルサの住民からするとただの愛の告白だ。
さて、どうしたものか。ルノは500年以上生きていることから結婚することに問題はない。しかし、俺はロリコンではないのだ。
よくよく考えてみると、この契約には危険が全くない。これが告白だとしてもそうじゃなかったとしても俺への損はない。
契約書に名前を書いて俺は言った。
「俺の宿題を終わらせてくれ。俺はお前とずっと一緒にいる。残り2つに願いはまた今度頼むことにするよ」
そして、契約書を渡した。
ルノは契約書に書かれた俺の名前を見て何事か呟いた。すると、契約書は瞬く間に輝き始め、消えた。
その代わりに俺の右手とルノの左手に悪魔の印が押された。悪魔との契約の証。だが、俺は知っている。ロリ悪魔との契約は危なくないということを。
「奏太!これからもよろしくな!」
「おう、こっちこそな」
宿題はすべて俺の字で埋められていた。
「ん?優衣、どうかしたか?」
窓の外を眺める優衣に向かって俺は言った。その手には赤い石のついたペンダントが握られていた。
「・・・ううん。なんでもない。ねぇ、お兄ちゃん。電話、なってるよ?」
きっと、ムジナのことを考えていたんだろうな。そう思いながら電話に出る。
時間はもう日付が変わっている。こんな時間に電話とは珍しい。
「もしもし?奏太です」
いかにも寝ていましたというけだるげな声で電話に応じた。
「―――――――」
しかし、返ってきたのは静寂。
「もしもし?いたずらなら切るぞ?」
今度はちゃんと返事が来た。
「夜分遅くにごめん」
その声は、いつか夏祭りの時に見かけた、同級生の女の子からだった。
「付き合ってください」
女の子からの電話はその言葉だけを残しきれていた。
どうやら、俺はまた面倒ごとに巻き込まれそうだ。
そう推測し、俺は新学期に備えて布団にもぐったのだった。
ゲームを終わらせなければならないことはわかっている。しかし、俺は人間で学生だ。
何があるかはわからないが、期待と不安が入り混じる心境の中、抗いがたい睡魔に襲われた。
〈了〉
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