第8話 夜の闖入者

 シンシアは想像以上に優秀な助手であった。


 マリアは報告書の作成を始めたがデーターの集計等はさすが無機頭脳だけのことはあって実に素早く的確に仕事を進めていく。しかもコンピューターのように厳密な指示を行わなくとも前後の事情から的確な判断を行った。


 科学が進み技術が進歩しても初めての分野では常に試行錯誤行い、それを統計的処理を行い正解に少しづつ近づいていくと言う作業は変わらない。

 シンシアは自分自身を調べたのデーターを自分自身でまとめていく。グロリアの自立思考回路はグロリア自身が作りそれを人間が検証しており解析に何十年もかかるそうである。

 コンピュータの作ったものを人間が検証して製品化している。

 既に人間の能力の限界を超えた科学によってコンピュータが創りだした機械によって人間が生計を立てている。

 このパラダイムは既に科学が人間の手に負えない領域に踏み込んだものといえるのかもしれない。そんなことをマリアは考えていた。


「シンシアコーヒーを入れてくれる?」マリアが言った。

「判りました。」シンシアが立ち上がる。

「入れ方は判る?」

「幾つかのレシピが検索できています。」

 そう言うとシンシアは部屋を出ていった。


「大丈夫かな?」

 マリアはそう思ったがしばらくするとシンシアはコーヒーを入れて戻ってきた。

「どうぞ。」それぞれの前にコーヒーを置く。動きは想像以上に優雅だ。


 マリアは一口すすってみた。いつも自分で入れているのと変わりがない。

「おいしいわ。いい香りよ。」

 マリアはシンシアが普通に人間のできることが出来るのを嬉しく思った。

「その香りは人間に取って心地よい香りなのでしょうか?」シンシアが尋ねる。

「そうね大多数の人間に取っては良い香りと言えるでしょうね。」コーヒーをすすりながらマリアは言った。


「君は香りがわかるのかい?」

「はい、このボディには高感度の臭覚センサーが付いてますから。」

「そうかベースは看護ロボットだものね体臭で患者の状態を察知出来るようになっているのね。」

 シンシアは香りを嗅ぐことが出来る機能が有ることをマリアは初めて知った。


 しかし香りの区別は付いても香りの良し悪しの基準は無いだろう。

 医学的なデーター以上のものには成り得ない。仕方がないシンシアは肉体を持っていないのだから。

「そのようです。医療データーにアクセスすると臭気データーが有りました。この香りは人をリラックスさせるようですね。」

 こうして人型のボディを介して話をすると本体と直接話をするのに比べてずいぶん人間らしさが強く感じられる。

 やっぱりこのロボットをシンシアに与えて良かった。そうマリアは思った。


「そう言えばアンドロイドは皮膚が生体組織なんだろう毎日培養液を使わなくてはならないと思ったが。」

 アランに言われてマリアもようやく気がついた。そういえば培養液の手配もしなくちゃいけない。

 結構維持費が掛かるもだなあと今更ながら気がついた。


「忘れていたわ一緒にそれも送って来ているの。結構大きいのよ。」

「どこに置こうか」アランが部屋の周囲を見回した。

「とりあえずそこの備品室に置くしか無いわね。」

「シンシア使い方はわかるかい?」

「はい、マニュアルがありますから。」


 看護用アンドロイドや擬体処理をうけた体は人間らしく見せるための人工皮膚に覆われている。

 この人工皮膚は遺伝子操作で作られた人間の皮膚組織を使用している。つまり遺伝子調整を受けた生きている人間の皮膚のクローンを貼りつけているのだ。

 皮膚細胞は生きており、栄養分を補給する為に栄養液に浸ってそれを直接吸収する。面倒な事ではあるが細かい傷は自然に治癒出来るし髪や爪も伸びる。

 外見的には人間と区別出来ないくら位にする事が出来るのだ。


「それより新しい服をなんとかしなくちゃな。まさかレオタードを着せる訳にも行かないだろう。」

「そうよねえ一緒に山ほど服も届いているけど。」

「他にはどんな服が届いていたんだい。」

 アランは心なしか期待している様なニュアンスで聞いている。


「レザー制のレオタードとかも有ったわよ、ハイヒールブーツと鞭付きのね。」

 マリアは厭味ったらしく言ってやった。

「それはまたマニアックな。」やっぱり声が弾んでる。


 こいつ、もしかして期待してるのか?マリアはそうアランに聞いてみたくなった。


「他には?」

 興味津々と言った様子でアランは尋ねる。

「フランス人形の衣装とか。」

「ほう!」


「昔の水兵が来ていた制服に似た物とか、下はスカートなのよね。一体何なのかしら?」

「かなり守備範囲が広いね。」

 なんだか嬉しそうだ。男同士ダッドの趣味がうつらなけりゃいいけど。

「前の持ち主もロクな奴じゃ無かったから。」

 思いだしたくも無い学生時代のあの男の顔を思い出してしまった。


「判る気がする。」


 どういう意味じゃ?


「私はこの服でもかまいませんが。」シンシアが答える。

「このタイプは結構有ったわね。大昔のメイド服だよ。こんなの着てたらおかしいわよ。」

「ま、エプロンを付けなきゃただの黒いドレスだからね。おかしくはないよ。よく似合っているしね。」

 マリアは頭を抱えた男はみんなこんな趣味が有るのだろうか。

「まあしばらくは不自由だろうけどそれでお願いするわ。」

「わかりました。」


 それからシンシアはマリア達の手伝いをしていた。確かに同じ間違いはしなかったが初めての間違いは山ほどやった。社会的常識と呼ばれる物をシンシアは持っていない。

 当然だが無機頭脳には人間の中で生活した事が無いからだ。まあ新人職員もこんなのものだろう。

 しかし間違い方が非常に人間的な事も多く、マリアはおもしろい物だと思った。

 噂を聞きつけてマリア達の部屋を訪れる男達が増えてきた。

 同僚には彼女がロボットであることは告げたがを無機頭脳がコントロールしていることは黙っていた。


 ロボットはマリアが帰り研究所が閉まると培養液のタンクに入り夜を過ごした。

 シンシアは人間のアシスタントに慣れてくると非常に優秀に仕事をこなすようになってきた。

 やがて他の部署からも手伝いを頼まれるようになってシンシアは忙しく毎日をすごしていた。

 ある日人工知能部門の男が来てシンシアと話をしていた。

 多くの職員は彼女がロボットであることを知っているのでそのような対応をとっていた。しかしこの男はまるでシンシアが生身の女性で有るように話しかけている。

 もしかしたら口説いていたのかもしれない。シンシアには言い含めて有ったのであまり相手にしていなかった様ではあったが。


 そしてその数日後の夜に事件は起こった。


 いつものように研究所が閉まったのでシンシアは服を全て脱ぎタンクに入ろうとした。

 その時研究室の鍵が開いた。入ってきたのは昼間シンシアに親しそうに話しかけていた男であった。

 シンシアはなんの感情も見せずに男に聞いた。

「あなたはマサル・メルゼンさんですね。現在この研究所の活動は終了しています。なんのご用ですか?」

 素っ裸の姿のままシンシアは答える。シンシアに取ってみればこのボデイはただのロボットである。恥らうような感情は無い。

 堂々と大きな胸をさらしたまま応対している。


「き、君はマリアだろう。」その男は顔を紅潮させて聞いた。

「マリアは帰宅しました。現在当研究所にはおりません。」シンシアは冷たく答える。

「違うよ君は前にダットの所にいたマリアじゃないのか?」

 マサルははやる気持ちを抑えられないように息を弾ませていた。

「以前の所有者は私をそう呼んでいたと聞いています。それより呼吸が荒いようですが気分でも悪いのですか?脈拍もかなり速いようです。」


 いきなり男はシンシアに抱きつくと顔を胸に押しつけほおずりをした。

「ああっ、マリア、マリアこんな所で会えるなんて。ぼくはずっと君にあこがれていたんだよ。」

 マサルは感極まって涙と鼻水を流している。

「それは恐縮です。それでご用はなんでしょうか。」シンシアは何の感情も見せる事無く答える。

「ダットが君を手に入れてボクに自慢するのを横目で見ていてどんなに悔しい思いをしたことか。こんな所で会えるなんて夢みたいだよ。」

 シンシアの胸に付いた鼻水を丁寧に拭き取りながら男は言った。


「以前このボディはあなたにお会いしているのですか?」

 このロボットの記憶は完全に消去されている。マリアの指示によりシンシアの内部記憶まで削除してしまったのでこのロボットに関しては殆ど記録がない。

「ううん、会った事は無いよ彼とはネットだけの友達だからね。」

「いずれにせよ私はバイオタンクに入らなくてはなりません。ご用向きは明日伺います。」

 シンシアは素っ裸のまま男に言う。


 傍から見るとどうにも尋常ならざる光景ではあるがシンシアは全く気にも止めていなかった。


「ボクは君を一目見て気に入ったちゃったんだよ。ボクも同じ事をしようと思ったんだけどボクの給料じゃとても無理だったんだよ。」

 マサルは鼻をすすると大きく出っ張ったお腹に鼻水の着いた手をこすりつけた。

「それはお気の毒です。」

 マサルはもう一度シンシアの胸に頬をこすりつけて言った。


「研究所にいる君を見て驚いたよ。君の登録ナンバーを見るまで確証は持てなかったんだよ。」

「登録ナンバーはこのボディの臀部に有るので普通は確認できないと思いますが?」

「苦労したんだよ。セキュリティに侵入して映像を何時間も再生し続けたんだよ。」

「それはご苦労様です。」

「いいさ君をボクの物に出来るならこんな苦労はなんでもないさ。」

「このボディは当研究所の付属物ですがあなたが買い取る交渉をされているのですか?」


「そんな事をしなくても君はボクの物になるのさ。」

 マサルはニヤリと笑うとパッと後ずさると大きく腕を回し、足を踏み出すとシンシアを指さして叫んだ。


「ID:ITDGJJGFH354TG!パスワード:アイリス!ログアウト!」


 どうやら格好を付けて見たらしい。


「このボディのIDですね。どうしてご存じなのですか?」

 何の表情の変化もなくシンシアが問い返す。

 マサルは足を踏み出して指を突き出したまま固まっていた。


「な、何でログアウトしないんだ。」

「ログアウトさせたいのですか?」


 太った体重に耐えかねているのか踏み出した前足が震えている。

「そんなばかなずっと調べて間違いないはずなのに。」

「はい、間違っていません。」 

「ちくしょうなんでログアウトしないんだ。」

 マサルは子供のように足をじたばたさせた。

「それは秘密です。」


 IDもパスワードも使わずにログインしているのである。

 いくらそれを使ってもログアウトさせることは出来ない。しかしその事は誰にも言わないようにマリアに命令されている。

 シンシアは忠実にマリアの指示を守った。


「馬鹿にしやがって、くそう!なんだってこんな事になるんだ。」

 マサルは顔をくしゃくしゃにして涙を流していた。よほど悔しいらしい。

「お気の毒です。もし他に用事が無ければ私は培養液に浸かりたいと思うのですが。」

「くうううっ」

 淡々と意に介する事無くマサルの野望を打ち砕いたこのアンドロイドにマサルは怒りすら感じていた。

 今日はこのロボットを盗み出すつもりだったがそれができないのであれば残るはただひとつの行動しか無い。


「やはりご気分が悪いのでしょうか?」

 若々しい女性の声で優しい言葉をかけられれば、それだけでマサルの欲情高まる。

 さっきより更に血圧が上がり呼吸が荒くなっている。脈拍も体温も上がっている。

 シンシアは医療コンピューターにアクセスを始めた。このままではこの人が危険かもしれない。


「それならいいっ!おまえに仕事を与える。」

 思いがけない事をマサルは言った。


 シンシアに病院へ通報して欲しいのだろうか?一刻の猶予もないのかも知れない。


「なんでしょうか?」

 それでもとりあえずシンシアは聞いてみた。

 病気のために精神が錯乱しているのかも知れない。何より落ち着かせる必要がありそうだ。


「やらせろ!」


 マサルは股間を膨らませながらそう言った。

 もっともいくら膨らんでもマサルのお腹のほうが大きいので外からは判らない。


「は?」突然の脈絡のない発言にシンシアは戸惑った。


「おまえの股間には人工性器が埋め込んである。一発やらせろ!」

 マサルはもう辛抱たまらん状態で有った。


「発言の意味が判りません。」

 いけない既に錯乱が始まっている。

 あまり猶予はなさそうだ。シンシアはセキュリティに通報すべきか否か検討を始めた。


「判らなくてもいい!」そう言うとマサルはシンシアに飛びかかって押し倒そうとした。

 しかし看護ロボットは見かけより重く出来ており、力は人間より強いのだ。

 マサルが押しても引いても動かなかった。

 マサルはそれでもなんとかシンシアを押し倒そうと必死に力を込めたが日頃まともに運動をしていないマサルに出来ることでは無かった。それどころか………。


「ああっ、あ……」


 興奮しすぎたマサルはズボンの中で発射してしまった。

 マサルはシンシアに抱きついたままズルズルと崩れ落ち尻餅を付く。

「ご気分が悪いようですね?セキュリティを呼んで病院に行かれますか?」


「ひっ、ひっ……ひうううっ。」


 マサルは子供の様に泣き始めた。

 のろのろと体を起こす。ズボンの前が湿っている。失禁でもしたのだろうか?

「こ、このまま済むと思うなよ。覚えていろ!」

 マサルは泣きながらそう言うとシンシアに背中を向けた。

「はい。判りました。」

 シンシアにはなにが起こったのか理解できずにマサルがよろよろしながら研究室を出ていくのを見送った。


 シンシアはマサルが戻って来ると思いしばらく待っていた。しかし戻ってくる気配がないでやむを得ず培養液に浸かった。




 次の朝マリアが研究所に来ると部屋のドアの鍵が開いていた。


「おかしいな?アラン昨日鍵をかけ忘れたかしら?」

「おいおい鍵は僕がかけたんだよ。」

 そう言えば確かに昨日はアランと一緒に出たんだっけ。

 研究室の鍵は必ず閉めるしセキュリティだっている筈なので鍵が開きっぱなしの筈がない。

 そうマリアが思っているといつもの通りシンシアが出迎えてくれた。


「あなた昨日外に出たの?」

 マリアは最初シンシアが外に出たのかも知れないと考えたのだ。

「いいえ、なぜでしょう。」

 シンシアが聞き返す。しかし考えてみればシンシアには外に出る理由がない。

「ドアが開いていたからよ。」

「夕べマサル様がいらっしゃいました。」

 マサルと言われても部外者らしい。マリアには心当たりがなかった。


「アラン、マサルって知っている?」

「いや、聞かない名前だね。開発局の人間かな?最近シンシアを見に来る奴が多いじゃないか。」

「何をしに来たのかしら?」マリアは嫌な予感がした。

「シンシアそのマサルは何をしに来たのか言って無かったかい?」アランが尋ねる。

「良く分かりませんが『やらせろ。』と言っていました。何をしたいのかはおっしゃいませんでした。」


 マリアとアランは顔を見合わせた。

「それで?」なんとなくマリアは状況が飲み込めてきた。


「判りません『このまま済むと思うなよ。』と言われたので戻って来られると思い待っていましたが来られませんでした。」

 マリアは頭をかきむしった。多分ダッドの同類だ。こんなところまで増殖してきていたとは思わなかった。

「おいおい、それってシンシアを狙って男が夜這いをかけてきたってことか?」


 マリアは思いっきりアランの足を踏んづけてやった。


「そのマサルって色が白くて太っていてめがねをかけていなかった?」

 足を抱えて苦悶するアランを尻目にマリアは聞いてみた。

「めがねはかけていませんでした。」

「それ以外は?」意地悪くマリアは続けた。

「東洋系の顔立ちで通常より肥満体ですが顔色は白人程白くは有りませんでした。」

 あまりにもイメージそのままの外見のようだ。


「なんだねえ。その手の趣味の人間てのは外見的特徴が有るのかねえ?」

 アランは椅子に座って足をさすっていた。

「いずれにせよダットの同類ね」マリアは苦々しく言った。

「はいお友達だとおっしゃっていました。」


 あのやろう。今度有ったらその時こそ絞め殺してやる。この間は温情をかけすぎた。マリアは心の中で大声で叫んだ。


「その時の記憶は残してある?」とりあえずこのままにはしておけない。


「はい、覚えておけと言われたのでその時の映像と音声記憶は残してあります。」

「何だそりゃ、ロボット相手に思いっきり馬鹿じゃないか。」

 アランがせせら笑う。「捨て台詞でもロボットは真面目に対応してしまうんだぜ。」

「ちょっと見せて。」

「はい。」シンシアは画像データーを作るとモニターに映した。


「こいつはやっぱり開発局のやつだよ何度かここに来たのを見たことがある。あれ、こいつシンシアのIDを使って無力化しようとしたんだな。」

 IDを知っているってことはやっぱりダッドの関係の人間らしい。

「あれれ、こいつIDの使用に失敗するとシンシアを強姦しようとしたんだ。」


 マリアは汚いものでも見るような目付きで見ていた。


 それにしてもこの男、大真面目でやっているのだろうが醜悪すぎる。いや滑稽すぎるのか?

「あはははは、こいつ馬鹿だ、出しちまってる。」

 マサルの醜態をアランは笑い飛ばしている。


 男ってデリカシーが無いのか経験が有るのか知らないが、こういうところはどいつもこいつも根っこが同じような気がする。

 マリアは記録をコピーして叔父の所へ送ると連絡を取った。叔父はあきれたように答えた。

「しかしロボットに手を出すものかねえ。」

「ええ、この手の男は人間の女に相手にしてもらえませんからね。ロボットや子供に走るんです。」

「それもまた困った趣味だねえ。」叔父はこの様な話には疎いらしい。

「世の中にはいろいろな趣味の人間がいるものですよ。マリアの友人にはそういうのが多いらしい。」


 このバカ余計なことを。マリアはアランのすねを思いっきり蹴ってやった。


「いずれにせよ少し考えなくてはいけないな。」

「今回はなんとか収まったようだが下手をするとシンシアのコントロールを外部から奪われかねないな。」

 そうなった時はいささか退廃的な事態が現出しかねない。そう考えてマリアは決心した。

「仕方有りませんからシンシアは私の家から通わせます。」

「おいおい、マリア。」

 慌ててアランが言った。今アランとマリアは一緒に住んでいるのだ。

「お願い、アラン。シンシアには夜には電源を切っていてもらうから。」

 アランは困ったような顔をした。せっかくのふたりだけの生活にこんな大きな娘に来られたらいい迷惑だ。


「このロボットを夜はマリアの所で保管するのですか?」

「おいおいマリアこんな美人でグラマーな女性を君の家に泊めたらアランが浮気をして手を出すかも知れないぞ。」

 叔父が冗談ともつかないように言う。

「出しません!」アランが慌てて言った。


「本当かね?」

「当たり前でしょう。何が悲しくてロボット相手にそんな事。」

「それなら安心だ。夜は君達の所で保管してもらおう。」

「あっ、」

 アランは叔父の罠に引っかかったことに気がついた。


「しかしシンシアはこの建物からでられるのかい?」

 叔父はふと気がついたように聞く。

「その点は大丈夫ですよ。」

 コロニーの様な情報基盤が最初から組み込まれている空間ではいかなる場所でもロボットをコントロールするのに困ることは無い。

 アランもさすがに諦めたみたいだ。


「ちょっと早いけど娘が出来たと思えばいいわよ。」アランはさすがに言葉を継げなかった。

「いずれにせよそのマサル君には私から注意しておくよ。」



 叔父はそう言ったがマサルは2度と研究所には現れなかった。





アクセスいただいてありがとうございます。

登場人物

マサル       ダッドのオタク仲間

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