冒険者だった

森山智仁

1-1 収穫

 マンドラゴラは地面から引き抜かれる際、頭痛・発熱・麻痺・混乱・石化・凶暴化・肩こり等々、さまざまな状態異常を引き起こす怪音波を発生させる。心臓が弱ければ即死もあり得るという。

 そんな超危険作物を、俺は耳栓もせずに引っこ抜く。

「#$%&@¥!」

 効かん!

 俺には生まれ持った強力な「音波耐性」がある。もとい、音波耐性に恵まれていたからこそ、引退後の食い扶持としてマンドラゴラの栽培を選んだのだ。

 現役時代に蓄えた金で寒村スノーホルムのボロ家を買い、不慣れな農業に励むこと一年、こうして収穫にこぎつけた。

 整然と並んだマンドラゴラの茎をテンポよく引っこ抜いていく。

「qあwせdrft!」

「gyふじこlp!」

 普通の人間なら裸足で逃げ出すほど不快な音らしいが、俺にはただのちょっと変な音にしか聞こえない。溜めに溜めた一撃が平然とやり過ごされて、こいつらもさぞ悔しいだろう。

 人面芋マンドラゴラ。主に黒魔術系の儀式や秘薬の精製に用いられる。一部のマニアにとっては珍味でもある。かなりの高値で売れるのだ。

 冒険者など目指さないで、最初からマンドラゴラ農家をやっていればよかった。明らかに天職である。

 冒険はクソだった。メンバーがクズだった。というのは、俺も含めてだが。

「おい」

 ん?

 誰の声だ?

「テメェふざけんな寒いじゃねえかよバカヤロー死なすぞコノヤロー」

 怪音波でなく、まさかの罵詈雑言。

 醜悪なマンドラゴラの目がじろりと俺を睨んでいた。

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