単色

千樹

第一話

少し寒目のクーラーが効く部屋だった。

貴方が虚ろな目で箱を見つめて

檜で出来てるの。

って、

愛おしそうに触った。

透き通った手が私を魅了する。

「貴方のその手は。水に浸したら、もっと綺麗に輝いてしまうのだろうか。」

彼女の横顔は笑った。

クスクスと音を立てて。

だけどその表情はまた虚ろに戻っては、哀を奏でた。

檜で出来た箱は呼吸をしているようだった。

そして世界は彼女のところだけとまっているようだった。

私は彼女に一礼して歩き始めた。

彼女は箱を開けると泣きはじめた。

いままで聞いたことのない声が部屋中に響くのを私は耐えられなくなりそうになっていたが、それでも彼女は泣き止まないまま、私が去るのを見なかった。

必死に檜の箱を抱いて

「お母さん」

と泣いた。

彼女は結局大切なものが無くなっても私の事を見てくれないんだ。そう思うと努力は報われるだなんて言葉。ああいうのは全て嘘なんだろうなって笑った。

帰りの帰路は炎天下の所為か、目の縁まで暑くなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

単色 千樹 @Hru000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る