第2話 黒いゴミ袋

 麻生さんという方から聞いた話。


 ある日の夜中、いつもの帰り道を歩いていると、道の端に透明なゴミ袋がいくつも置かれているのが見えた。回収スペースというやつだ。

 ああ、そろそろ回収車が来るのかなぁと思って通り過ぎようとすると、その中の袋の一つがやけに気になった。

 真っ黒だった。

 昭和の時代ならまだしも、あんな真っ黒なゴミ袋でゴミを出して。


(ちゃんと回収して貰えるのかなぁ)


 見知らぬ他人にいらぬ心配をしていると、そのゴミ袋が動いた。

 もこもこもこっ、と。


「へ??」


 思わず声に出すと、黒いゴミ袋はズザザザザザ、ともの凄い勢いで麻生さんの目の前まで移動し、『ひょこっ』と立った。

 まるで袋の中で猫でも立ち上がったかのように、袋全体が縦に伸びて持ち上がるような形になった。

 そしてまたズザザザザザザ、と移動し、

 さっきあった所とはまったく違う場所、街路樹の下に落ち着いてピッタリ止まった。


 麻生さんは、煙草に火をつけて「おちつけ、おちつけ」と自分に言い聞かせつつ、心持ち早足で、帰宅した。


 翌日朝早くに同じ道へ行ってみると、他のゴミ袋は回収してあったが、例の黒いゴミ袋だけは、昨夜と同じ街路樹の下にポツンと放置されていた。


 それから通勤路を変えた。黒いゴミ袋がその後どうなったかは、当然わからない。

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