第4話 ハニワと遊んだ

「昔の日記を見て欲しいんですけど・・・」


 40代の主婦、美幸さんからそう言われたのは、もう5年ほど前になる。


「あ、他のページは見ないで下さいね。プライバシーですから。見ていいのは、このページのここんとこ」


 美幸さんは、一日起こったことをその日の終わりに小さな手帳数行ほどの日記にまとめるのが日課だった。

 手渡された日記を読んでみると、「息子が100点を取ったといって自慢げにテスト用紙を見せてきた」「お昼のドラマの展開が意外でおもしろかった」「今日は何もなかった。夕飯はひさしぶりにカレーにした」などという何気ない記述に混じって、


5月20日 今日はみんなで遊園地に行った。 私はハニワと遊んだ。 「二年後、家族は三人で暮らせなくなるぞ」と言われた。 貴之さんが泣いた。


 という不可解な一文が目に留まった。

 貴之さんとは、美幸さんの旦那さんの名前である。

「実はその日・・・私、朝から急に高熱を出してしまって、一日まるっと、寝て過ごしてたんです。遊園地にだって、誰も行ってません」


 改まったような面もちで、美幸さんは続ける。


「翌日に熱がひいて、『そう言えば昨日、日記もつけなかったわ』と思いながらこれを開いてみると、書いてあったんです。まったく覚えもないんですよ」


 20年くらい毎日続けた日課だったから、高熱にうなされながらも無意識のうちに書いてしまったのかなぁと最初は考えた。

 しかし日記は枕元ではなく、部屋の引き出しの一番上に直してあった。身を起こすのも苦しいほどの高熱の中で、意識のないまま引き出しのところまで行ってこれを取り出し、夢のような内容を書き付けた後に、また引き出しに戻して布団に戻る、などという芸当をやってのけたなどとは俄かに考え難かった。

 しかも、筆跡はまったく乱れていない。いつもの几帳面なペン文字だ。

 「親子三人で暮らせなくなる」

 「夫が泣いた」

 この二文が、たまらなく気になって仕方なくなった。

「予言のようなことをしてしまったのではないかと思ってーー」



 結論から言うと、それは確かに「予言」であり、確かに当たった。


 2年後、美幸さんは玉のような男子を出産した。

 家族は、四人になった。

 逆子で、へその緒が首に巻いているようなので、覚悟はしておいて下さいと言われていたのだが、無事に赤ちゃんは生まれてきた。


 夫の貴之さんは、「よくやった、よくがんばった」とボロボロ涙を流しながら泣いていたという。

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