第12話

退社していく仕事仲間たちと挨拶を交わしながら仕事場を出て、私と遠藤くんは夕暮れの街を歩き出した。


私の横を歩く遠藤くんは身長は170くらいで、150くらいの私とは全然歩幅が違う。


遠藤くんが凄くゆっくり歩いてくれているのが分かる。


「それにしても、先輩。」


「ん?」


それまで、少しの間黙っていた遠藤くんが再び喋り出した。


「昨日は、俺みたいなの良く運べましたね?それに、香田まで。本当に大丈夫だったんですか?」


遠藤くんの言わんとするところは良く分かる。


普通、大人二人とか女の力じゃ運べない重さだもんね。


「私、結構力あるのよ?」


「それでも、無理でしょう?」


「まあね。特に専門で何か習ってる訳じゃないんだけど、家族みんな運動好きで私も一緒にいろいろやってたからかもしれないわ。」


本当は家族みんないろんな格闘技をやっていて、面白そうだからとちょこちょこ遊びに行った私の方が強くなって真面目に習ってた兄たちや父親や教えてくれてた先生までも全部負かしてきてしまっているとはとても言えない。


そして、本当に同じ生き物か?と突っ込まれるくらいに力持ちだということも。


「そんなの知らなかったです。今度、腕相撲の相手とかして下さいよ。」


「嫌だよ。そんなのやらない。」


私はきっぱり断った。


遠藤くんを捻り潰す自信があるだけに、彼が可哀想だし自分の力の強さを見せたくなかったのだ。


「それよりも、今日もあのお店で良いの?」


私は二人がもしあのお店でまた酔い潰れてしまったら、と心配して訊ねた。


もし、私が無事に連れて帰れなかったら、二人はどこかの世界で冒険の荷物持ちとか酒場の踊り子とかやらされるかもしれないのだ。


私一人だったらどうにでもなるだろうが、あんな様子の二人の面倒をまた見なきゃいけない可能性もあると考えるとゆっくり楽しくは飲めないだろう。


「あは、大丈夫ですよ!今日は絶対に飲みすぎませんから。」


そんな気楽な返事に苦笑いしながら、頷いて見せた。



────



『居酒屋 蒼海』の暖簾を潜る。


直前に遠藤くんが店の前の貼り紙を見ていたが、きっとそれはコスプレイベントなどの案内がないか確認していたのだと思われる。


私は、あれがイベントでも何でもなかった事を知ってしまったので、特にチェックはしなかった。


「らっしゃいませ~!」


店内に入った途端に響く、威勢の良い声。


それはいつものいがぐり頭の元気なお兄さんだった。


普通の人。


そして、奥を行ったり来たりしているのも普通の人。




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