第11話

仕事場に来る途中、コンビニで買っておいたコーヒーを飲みながら今日は早く寝れますようにと小さく呟いた。



────



夕方、私は今日しておかなければならない仕事をあらかた終わらせて、書類の整理をしていた。


その最中に勤務時間の終わりを知らせるチャイムが聞こえてきた。


すでに片付けを終わらせていた数人は、「お先に失礼します。」と言いながら退社していった。


私も書類の整理を終わらせて机の上のものを片付けて帰る準備をする。


「先輩~!来ました~!」


手を振りながらやって来たのは、遠藤くんだ。


その様子はまるで子供のようだ。


「お疲れ。香田さん置いて一人で来たの?」


二人が一緒に来るものだと思っていた私が訊ねると、遠藤くんは苦笑いした。


「俺たちただの同期ですから、そんないつも一緒って訳じゃないですよ。」


「そうだったの?二人は付き合ってるんだと思ってたわ。」


私だけじゃなく、社内で二人はカップルだと言われている。


それくらいいつも仲良くしているのだ。


「…………俺の好みは香田みたいなのじゃなくて、先輩みたいな感じですから。」


小さな呟き。


遠藤くんは顔を逸らしてしまった。


「そんな煽てても何も出ないわよ。」


私は遠藤くんを一瞥して、机の引き出しからバッグを出した。


「…………ひどい……」


「さ、帰る準備をできたよ。」


私は、何か小さな声でモゴモゴ言っているのを無視して椅子から立ち上がった。


「じゃあ、行きましょっか!」


遠藤くんは表情を笑みの形に変えて、歩き出した。


私は遠藤くんのずっとウジウジしていない所は大好きだ。


「香田は、ちょっと残業してますから先に行っときましょう。」


「残業かぁ、大変だわね。」


「ほんとですよ。しかも、こんな大事な時に。」


「今日は何か大事な事があるの?」


私はワクワクしながら訊ねた。


遠藤くんが香田さんに告白とか、プロポーズとか?私は遠藤くんのさっきの否定は照れ隠しだと思ってるから、そんな想像をした。


「…………先輩、ニヤニヤし過ぎですよ。何か変な想像してるみたいですけど、多分違いますよ。憧れの先輩と一緒に飲めるっていう凄く幸せなイベントに、何で残業なんだって話なんです。」


普通は本人にそんなことは直接言わないだろうという感じだ。


多分、躊躇いもなく言っているから冗談なのだろう。



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