第10話

「はい。全部は覚えてないんですが……二人とも、歩くこともまともに出来てなかった上にいろいろやらかしてしまったみたいで。」


その言葉に、昨日の二人の様子を思い出して笑う。


でも、それは呆れた笑いではなかった。


異世界に連れ去られなくて良かったという安堵の笑みだった。


しかし、そんな事を知らない二人は私が嬉しそうにしている様子を不思議そうに見詰めている。


「それで、お礼に、先輩とまたあの店に飲みに行こうって話になったんです。」


なんと剛胆な人たちだろう……あんなに酔っ払った姿を見せた場所にもう一度足を運びたがるなんて、と心の中で突っ込んでしまう。


しかし、私にとっては助かる事だ。


飲みに行ったついでにあの男の人にコンタクトを取ることができそうだから。


「も、もちろん、今度は酔い潰れませんし。僕たちの奢りで、如何ですか……?」


「良いわよ。」


恐る恐る訊ねてきたのに、私はあっさりと返事を返してやった。


二人は断られると思っていたのか、驚いた顔をして固まってしまっている。


「ほんとに、良いんですか?」


「んな、嘘言ってないわよ?念書でも書こうか?」


よほど信じられなかったのだろう。


確認してきた香田さんに笑顔を向けながら、そうからかってやった。


「いや、疑ってる訳じゃないんですよ!あんまり嬉しすぎて……ねぇ、遠藤くん。」


「うん。俺も木佐木先輩の心の広さに感動してて、嬉しすぎる。」


遠藤くんは涙を拭う仕草まで付けて見せた。


「ちょっと、遠藤くん。木佐木先輩、迷惑かけたこと許すって言われたんじゃなくてね。」


一人で突っ走っている感じの遠藤くんを香田さんが窘める。


「香田さん、許すもなにも私全然怒ってないから。逆に二人が無事で良かったって安心してる。」


「え?お酒飲んで無事で良かったって?急性アル中の心配されてたんですか?」


「あ、ええ。まあね。」


私は余計なことを言ってしまったと、口をつぐんだ。


と、チャイムが鳴った。


「では、仕事終わったら先輩のとこ来ますから~」


二人は会釈を残して、自分達の仕事場に戻って行った。


私もパソコンを立ち上げて、作業を開始した。


一日が始まったばかりなのに、小さく欠伸をする。


昨日、二人を家まで送り届けてから自分の家にたどり着いたのが、だいぶ遅かったから単純に寝不足だ。


二日酔いではない。


同い年くらいの人たちはみんな、飲んだ翌日に仕事はできないと言って休みの日の前日に飲むようにしているらしいが、私は平日でも大丈夫だ。


それは、単にほとんど飲まないからなのだが、周りからはお酒に強くてタフだと勘違いされている。

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