第7話

何かを言いかけようとしているのを無視して、その男に残ったお冷やをぶっかけてやった。


それから遠藤くんを背負って、香田さんの腕を肩に担いでその男を睨み付けながらゆっくりと店を出た。


店を出てすぐ近くで、遠藤くんと香田さんを地面に降ろす。


もちろん、店の方を警戒しながら。


誰も追ってきていないことにホッとしながら、私は今さらながら大事な事に気付いて固まった。


飲み食いした代金を払ってきていないのだ。


いくら怖かったからと言っても、お店の代金は別問題だ。


私は二人を往来の邪魔にならない場所に転がしてから、「お金払ってくるから、ここから動いちゃ駄目よ!」と声をかけて再び居酒屋に戻った。


「らっしゃいませ~」


いつもだったら心地よいその迎えの掛け声も、こっそり入りたかった今の私にとっては苦痛でしかない。


「あの、すみません。お金を払わずにお店を出てしまって…………」


近づいてきた金髪の店員に頭を下げると、クスリと笑われてしまった。


「えーと、先ほど一緒に話をされていた男の方が払って行かれましたけど?」


「え?遠藤くんが?……あんな酔い潰れてたのに、いつの間に?」


「あなたの連れの方の方ではないですよ。回収業者の方の方です。」


「回収業者?」


「ええ。ここで酔い潰れた人たちを片付けてもらってる回収業者さんです。回収業者の方なのにあの人はとてもいい人なんですよね。普通だったら、回収された後は人間扱いなんてされないような場所に連れて行かれるのが普通なのに、あの人はできるだけ良いところに連れて行ってくれると評判ですから。」


私は聞かされた内容に衝撃を受けて、思わず口をパクパクする。


声は全く出ていないので、まるで鯉のようだ。


「あ、もしかして、あなたがたはまだ通達のない地域からのお客様でしたか?見た感じ地球とか?」


「あ、はい。」


訳の分からない話に混乱し過ぎて、返事を返す自分がもう誰と喋っているかなんて感覚はなくなっていた。


「地球は、そういう認可がすごく難しいから、できるだけ迷い込まれないように気を付けてはいたんですけどね~。ここのお店はどんな世界の方たちも入れるようにチャンネル設定を広くしてるから、地球だけ遮断とか難しくって…………」


この人いったい何を言ってるんだろう?と混乱した頭の中では考えているのに、異様に落ち着いた自分の声が知らないうちに返事を返す。




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