第6話

────



三人で飲み初めてから一時間くらい経っただろうか。


客がだいぶ帰ったようで、混雑していた店内がかなり静かになっていた。


隣のテーブルの白髪三人組も、もういない。


「さて、そろそろ帰ろうか?」


三人とも同じくらい飲んでいたが、私が一番酔っていなくて腕時計を確認しながら二人に声をかけた。


「え~!まだ大丈夫ですよ。もっと飲みましょうよ!」


完全に出来上がってしまっている香田さんが、私の両手を握り締めて目を潤ませて見詰めてくる。


「香田さん、そんな可愛い顔は彼氏に見せてあげなさいな。」


「彼氏なんて、いませんもん!」


頬っぺたを膨らませて拗ねてしまった。


「ほら、遠藤くんも聞いてる?そろそろ帰ろうか?」


返事の返ってこなかった遠藤くんの方を見ると、睡魔と戦っている最中だった。


首がゆらゆらと揺れて、まるで子供のようだ。


「あーもう。」


二人ともどうしようもないが唯一まともな私が、二人をどうにかするしかない。


少し酔ってはいるが、まだ大丈夫な私は二人をどうやって帰らせるか懸命に考える。


「そのまま、置いていけば良いのに。あなたは、面倒見が良いんですね。」


突然、何処からか声がした。


私はまさか自分が声をかけられたとは思わず、返事をせずに、遠藤くんを起こそうと何度も身体を揺する。


「ほら、そんなの置いていってくれたら、僕たちが処分しておきますから。お姉さん。」


私はようやくその声の方に顔を向けた。


自分が言われているのか確認するためと、何か穏やかじゃないことを言っている様子にドキリとして。


顔を向けた先にいた人物は、テーブルの上に両腕を乗せてその上に顎を置いて私の方を見ていた。


満面の笑顔で。


「…………あなたは何?」


私は顔をしかめて、警戒心丸出しの声で訊ねた。


黒髪短髪で小麦色の肌をした、とても爽やかそうな男だったが喋っている内容的に警戒しないわけにはいかない。


「…………そっちの男は冒険の荷物持ちに良さそうだし、そっちの女は酒場の踊り子に良さそうですね。」


私の問いに返事を返すことなく、酔い潰れた二人をじっくり眺めながら訳の分からないことを呟いている。


私は言い様のない不安を感じて、二人の頭を思いっきり叩いた。


「ほらっ!あんたたち!早く帰るわよ!寝てる間に、いたずらされたくなかったら起きて自分で歩きなさい!」


私の必死さは二人には全く伝わっておらず、唸ったり笑ったりしている。


「二人とも、そのままここでゆっくり休んでください。朝になったら新しい日々の始まりですよ~」


そう言いながら、男は二人にクッションのようなものを押し付けた。


遠藤くんはそれを枕にして眠りだして、香田さんはそれを抱き締めてご機嫌だ。


私は、手に負えない二人と怪しい男を睨みながらお冷やを一気飲みした。


それから…………


「この二人に手ぇ出したら承知しないからね!何がなんでもこいつらは私が連れて帰る!二人に何かあってみろ?ただで済むと思うなよ!」


自分よりも遥かに大きな怪しい男の胸ぐらを掴んで、私はそう脅しをかけた。


「え、あの」





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