第5話
香田さんだけが、真剣な顔をして何やら一人で考えているようだった。
「お待たせしました!」
銀髪の店員がビールとチューハイをテーブルに置く。
「さぁ、飲むぞ!」
私と遠藤くんはビールを掲げて乾杯の準備をしているのだが、香田さんはまだ考え事をしている様子でチューハイのグラスに気付いてもいないようだ。
「香田さん、さ、乾杯しようよ?」
「あ、え?はい!」
ようやく意識がこちらに戻ってきた様子の香田さんがグラスを持って、三人で軽くグラスをぶつけて乾杯した。
「私たちも何かコスプレしてくれば良かったね。って、そんなイベントがあってるって事自体知らなかったんだけど。」
「そうですよね。こんなイベントやってるなら、外に書いてありそうなもんですけど、何にも書いてなかったし。」
「これ、イベントじゃないかもしれないですよ?」
それまで、ほとんど黙っていた香田さんがそんな事を言い出した。
「え?イベントじゃなかったら何なのよ?」
「ここ、普通の居酒屋じゃなくて、日本でも地球でもない場所かもしれないですよ。」
その意味不明な言葉に私は一瞬固まってから、大笑いした。
「そんなこと、あり得るわけないでしょ?香田さん、マンガとか読みすぎじゃない?だって、この居酒屋、私時々来て飲んで帰ってるのよ?料理だって飲み物だって前回来たときと変わってないし。」
「でも、私は何だか、普通じゃない気がするんです。」
怯えた口調でそう言って、香田さんはチューハイをすごい勢いで飲み始めた。
「そうそう!飲んじゃえ!楽しかったらここがどこだって良いじゃない。いつもその後、無事に家に帰れてるんだから心配ないわよ!」
私がそう言いながら頭を軽くポンポンと叩いてやると、嬉しそうに目を細めて頷いた。
「それもそうですね!」
すぐに元気になってくれてホッとした。
やっぱり、飲むなら楽しめた方が良いから。
「はいっ、ご注文の品です~!」
ちょうど良いタイミングで、注文したものが次々と運ばれてきた。
「私、おかわりお願いしま~す!」
空になったグラスを掲げている香田さん。
「おぉ、良い飲みっぷり!男らしいねぇ!」
「一応、乙女ですけどね!」
テンションの上がり始めた香田さんは、笑顔がとても可愛らしかった。
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