第4話

何に対する言葉なのか分からない小さな呟きを残して、店員は二人を私のところに案内して去っていった。


「先輩、こんな所で飲まれてるんですね?」


遠藤くんの言葉に私は苦笑いしながら頷く。


「一人でこういうお店に入って、のんびりするのが大好きなのよ。珍しいお店とか、面白いお店とか、美味しいお店見つけた時にすんごいテンション上がるし。」


「へぇ、先輩って、意外と冒険心があるんですね!」


「意外とって、どういう意味よ?」


「だって、先輩仕事の時はすごい真面目で手堅いから、行き慣れたお店にしか入らないイメージですよ。」


隣で香田さんが、小さく首を縦に振る。


「まあね。実は見栄はってみた。一人でこういう居酒屋に来るのは好きだけど、そんなに新たな店なんて見つけたりしてないんだよね。今日、珍しくちょっと冒険してみようと思ってうろうろしてみたけど新しいお店見つけられなかったよ。だから何度か来たことのあるここで飲んでる訳なんだ。」


「…………木佐木先輩、こんな凄そうなお店に時々来られてるんですか?」


香田さんが、目を見開いて辺りをキョロキョロする。


確かに、こんな外国人だらけのお店に時々来るなんて勇気が要るなと私でも思うけど。


「いつもは、普通に日本人の店員さんでお客さんも日本人ばっかりだったわよ。私も、今日入ってみたら店員さんも客も外国人ばかりだったからたまげたわよ。」


「たまげたって言ってる割には、すごく満喫されてますよね?」


遠藤くんのストレートな突っ込みに、私は言葉を返すことができなくて笑って誤魔化す。


「…………さ、せっかくだから、乾杯して飲みましょうよ。奢りはできないけどね。」


「え~、奢りじゃないんですか。残念。」


唇を尖らせた遠藤くんのおでこにチョップを入れてやる。


「お財布事情は、同じ立ち位置だから一緒なのよ。私はビールおかわり。」


「はーい。それじゃ、俺はビールと焼き鳥と枝豆。香田は決めた?」


「うん。私は、リンゴチューハイと揚げ出し豆腐と焼き鳥かな。」


「すみませ~ん!」


近くを行ったり来たりしていた金髪の店員に声をかけると、すぐさまこちらにやって来た。


「はい!」


「ビール二杯とリンゴチューハイ一杯、焼き鳥二皿、枝豆、揚げ出し豆腐…………と、おつまみ盛り合わせ!」


「えー、復唱します。ビール二杯とリンゴチューハイ一杯、焼き鳥二皿に枝豆、揚げ出し豆腐、おつまみ盛り合わせですね?」


「はい、間違いないです。」


「では、少々お時間いただきます。」


お辞儀を残して、店員が去っていった。


すぐさま遠藤くんがひそひそと私に話しかけてくる。


「…………外国人ばかりなのに、何かすごい日本語上手い人ばかりですね。」


「そうなのよ。だから、日本人がコスプレしてるとかだと思うんだけど…………」


それを聞いて、香田さんが真剣な顔になった。


「こんなに、見分けがつかないくらいのコスプレなんて不可能ですよ。どこかしらに不自然な感じが出てくるはずなんですけど。」


「香田は、ちょっとやったことあるって言ってたもんな、コスプレ。でも、コスプレでもなきゃ、あの全体的に真っ赤な人と真っ青な人の説明はつかないよな。そんな色の外国人なんて聞いたこともないし。」


「だよね~」


私と遠藤くんは頷き合う。









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