第27話 寿々花の普通の一撃
寿々花は“予知ができる”のだ。なのに、自分が死ぬなんて事態を知らないとは思えない。死ぬという予知そのままにならないよう、何らかの行動や用意をしているはずだ。
でなければ、あまりにもあっけなさ過ぎる。
(でも…………)
だが、予知はランダムに発生するモノだ。寿々花の好きな時に好きな予知ができるワケではない。
この事を知らなかった。予知する事ができなかったと考える事はできるが――――――――――本当にできなかったのだろうか。
本当に寿々花は死んだのだろうか。
本当にこうなる事を予知できなかったのだろうか。
(この考えが、そもそもおかしいとはわかってるけど)
決定的な瞬間を見たのに疑問が沸いてくる。
便座に座ってそんな事を考える雅久だった。
「ちょっとッ!? なんであんたそんな格好でそんな所に座ってんのッ!?」
今気づいたのか、顔を赤くして眼を反らしながらトゥトゥラは雅久を注意する。
「オレだって好きでしてるんじゃないわ! 建物が木っ端微塵になったんだから仕方無いだろがッ! 立ち上がれるタイミングが無いだけなのッ!」
そんな雅久の元へすぐにレナとリーンベルもやって来る。
「露木雅久、あなたはかなり図太い性格をしているのですね。軽蔑したほうがいいでしょうか?」
「もー露木君てばー。私は落ち着いてからの方が出るものも出ると思うけどなー」
「くっそぉぉぉぉぉ! お前らはオレが席を立った理由を全くもって覚えてないって事かぁぁぁぁぁぁ!」
さらに女性が増えたためなおさら立てなくなってしまった。雅久は頭を掻きむしりながらも全力で便座に座る。
「しかしよくあんな攻撃できたな。即席であんな連携できるもんなのか?」
「私とリンちゃんはそばにいたからねー。あのくらいの作戦ならちょっと話せばすぐできるよー。問題はねー、離れた所にいるトトちゃんが気付くかだったんだけどー、別に問題なかったみたいだねー」
「そりゃあね。あんだけ攻撃してアピールされれば誰でも気付くわよ。明らかに思いっきりぶち込めって用意されたようなもんだったし。だから超必殺技とっておきをぶち込む事に躊躇いはなかったわ」
「ウィンスレットの攻撃は雑です。あれなら、最後の攻撃は私がやった方がよかったですね」
「はぁ? あんだけ見事に決めたのに文句あるっつーの? このおチビちゃんはさぁ?」
「あわわわ! 二人とも怒らないでください! あとでベルちゃんにはあとでチョコレート買ってあげるから! トゥトゥラちゃんには……えーと、その…………そう! おしゃぶりとかガラガラとか買ってあげますから!」
「なんで私の方が子供扱いになってんのよッ!?」
「位置的にしょうがないねー。いつかリンちゃんがそんな風に目立つ機会がきっとあるよー」
「お前らってなんつーか……いつでも通常運転なのな…………」
そんなこんなを話している間に覚醒力の霧が晴れてきた。
霧の晴れた先には――――――何も無い。
三人の連携は見事に決まっていた。
「無事、倒せたようですね。まあ、わかっていた事ですが」
「当然よ。私の全力をその身にブチ当てられたんだから」
攻撃の中心地、そこに寿々花の姿はなかった。あの凄まじい威力は対象だけでなく、地面も巨大な独楽が突き刺さったように抉れている。
やはり《断絶に煌めく銀の臨界点ヴォーパルセイグリッド》にはそれだけの威力があった。たった一人など容易く消してしまう力があったのだ。
だが。
「想定が甘い」
雅久達の背後、そこから聞けるはずの無い声がした。
「私がお前達より遙か格上なのはわかっていたはずだが」
「「「「なッ……!」」」」
その場にいる誰もが我が目を疑った。
四人の背後へ知らぬ間に寿々花は立っており、その“拳から淡い光が漏れていた”のだ。
「思い込むとはもっとも恐ろしい事だ」
その光りは段々と強く輝き始め、やがてそれは《断絶に煌めく銀の臨界点ヴォーパルセイグリッド》と変わらない――――いや、それ以上に眩しい光を放ち始めた。
「覚醒拳グラディウス!? な、なんで覚醒力が使えてるのよ!? あんた魔界力を使ってたじゃない!?」
「それが思い込みというヤツだな」
「この――――」
即座にトゥトゥラは覚醒拳グラディウスで反撃すべく構えるが、その時にはもう寿々花はトゥトゥラの前へ移動していた。
瞬きよりも速く、そのスピードを捕らえる事ができたのは誰もいない。
「その位置は邪魔だ」
目を離していたワケではない。なのにトゥトゥラも他の全員も反応できなかった。
「飛べ」
恐ろしい威力である寿々花の覚醒拳グラディウスが来る。
トゥトゥラは反撃すべく構えたのが最大の隙となってしまった。防御姿勢がとれず、先程の寿々花のように無防備な姿を晒している。
「ッ!?」
あの拳には、少なくとも《断絶に煌めく銀の臨界点ヴォーパルセイグリッド》と同程度の威力があの拳にはある。
まともにくらってしまえば――――――結果は明らかだ。
(――――避けられない!)
寿々花の覚醒拳グラディウスは真っ直ぐトゥトゥラへと放たれ――――――
「四属性全開砲テトラフルブレイカー!」
――――――それはギリギリで阻止された。
地水火風の四つの属性が混同された、リーンベルの特別属性弾とも言うべき虹の弾丸。 それらが螺旋を描きながら瞬時に放たれ、寿々花は即座に飛び退いた。
「ほう、大したモノだな」
「属性力の一つや二つ、即座に放つくらい簡単な事です」
「なるほど。攻撃速度はお前の得意分野か」
「その通りです。よく理解しているではないですか。もっと理解していただいてよろしいですよ」
「こんな所で威張ってどうすんのよ……」
無表情だが、フンスと鼻を鳴らすリーンベルをトゥトゥラは見逃さなかった。
「よく反応、反撃したと言いたい所だが…………」
覚醒拳グラディウスではない反対の手。その寿々花の左手の人差し指から僅かに――――湯気のような靄が立ち上っている。
「私は魔界力と覚醒力が使用できる。ならば、別に属性力が使えたとしても不思議でないと思わないか?」
その指先は“何かが撃たれた証拠”なのだろう。
何かが撃たれて――――――何かが手遅れになってしまった事の。
「…………あ」
寿々花の人差し指の先。そこにいたのは“心臓を穿たれた雅久”だった。
直径一センチはある大きな穴が向こうの風景を除かせている。
「露木さんッ!?」
シスリーの言葉など聞こえてないとでも言うように、雅久の首がガクリと項垂れた。
それと同時に大量の出血が地面を濡らす。
「奇遇だな。攻撃速度が得意分野なのは私もなんだ」
寿々花の言葉には雅久を殺した後悔も感慨もない。
ただ、仕事の一工程を終え“これからが大変だぞ”とでもいうような“不安だけ”が僅かに滲んでいた。
「光の属性力!? 会得者が数人しかいないと言われる光の属性力を……こんな短時間で展開したというのですか!?」
「別におかしい事じゃないでしょチビッ子…………ただの覚醒拳グラディウスで私の全力より上を行くようなヤツなんだしさ……」
魔界力、覚醒力、属性力まで何故か寿々花は使う事ができている。しかも高レベルの使い手であり、どの力もこの場にいる誰よりも上を行っている。おそらく結集力も同レベルかそれ以上で使う事ができるだろう。
戸惑いながらも三人は寿々花を警戒するが、正直警戒した所で為す術などない。自分たちは蛇に睨まれた蛙のようなモノで、命は相手が握っている。
「そ、そんな…………露木さんがッ! 露木さんがッ!」
だが、そんな事態など関係無いとでもいうように、シスリーの悲痛な叫びが響き渡った。
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