第24話 普通の理由

「あ、えとミネ・ルトス・逗火さんッ! いや、ここでは露木さんの言い方に合わせて……その……あ、そうそう! 寿々花さんと言いましょう!」



 追っていた人物をやっと見つけたとばかりにシスリーは寿々花を睨み付ける。


 いきなりの事だったのでその目は大きく動揺しているが。



 「あなたを悪党界(ブラッドブラック)に連行します! 罪状は最強の魔界力(ディスダッド)の勝手な持ち出しと、それによる他世界への告げ口の可能性…………って、言い方間違えました。えーと、なんて言うんでしたっけ………………えっと…………その……あれ? えーとですね……」


 「情報漏洩か?」


 「あ、そうです! 教えていただいてありがとうございます!」



 ペコリと寿々花に一礼した後にシスリーはハッとする。



 「はう! 捕まえなきゃいけない悪党に物事を教えられてしまいましたッ!」


 「悪党はお前……いや、なんでもない」



 いい加減このツッコミにも飽きてきた雅久だった。



 「情報漏洩か。だが、私をどうにかする前にそこの雅久を公然猥褻罪で捕まえるべきなんじゃないのか?」


 「こうぜんわい……なんですかソレ?」


 「ううううう……オレが光速で動けるならさっさと履くモノ履いて何食わぬ顔をするモノぉぉぉぉぉぉ……」



 雅久はパンツを履こうにも、すぐ隣にシスリーがいてなおかつ離れようとしないため便器に座ったままだった。



 「しかし、ちゃんと知り合ったようだな雅久。私の言った事をちゃんと実行してくれたようだ」


 「……え? 実行?」


 「普通に決断しろと言ったろ? そのおかげで、そこの四人と無事出会えている。まあ、死にたくないものな。私の忠告を無視する事は難しかったはずだ」


 「いや、まあ死にたくないのはそうだけど……えっと…………コイツというかコイツらはオレが何か行動するまでもなかったような気がするというか、気がついたら勝手に知り合いになってたっていうか……」


 「ほう、よかったじゃないか雅久。可愛い女の子に囲まれて幸せだろう」


 「いや、幸せとは違った意味が飛び込んできたっていうか…………うん、確実に幸せじゃないな……」


 「つまり満更でもないという事か」


 「姉ちゃん人の話聞いてた!?」



 フフフと寿々花は笑う。


 そんな普段のやり取りをする寿々花と雅久は、峰途商店で話すいつもの二人だったが――――――ここに流れている空気が張り詰めているのは変わらなかった。



 「…………姉ちゃんなのか?」


 「ん?」


 「姉ちゃんが…………“この事件”を起こしたのか?」



 当然、雅久が聞いているのはレストランの爆発だけでは無い。



 「………………」



 その事件の中には“これまでに起こった全ての偶然”が含まれている。



 「…………苦労したぞ。四世界の秘薬を全て私の店に集めさせるのは」



 その呟きは、寿々花の自白に等しかった。



 「各世界に住むヤツ全員が勝利だけを願っているワケじゃない。勝利者は自分、他全ては敗北者といったようにな。だが、どの世界にもそんな事より“どうすれば安定した平和が続くか”を考えてるヤツはいるんだ。過激なヤツ、穏健なヤツと色々いるがな――――」



 寿々花は淡々と語り続ける。



 「――――そんな中から比較的まともな部類…………なのかは後生のヤツらに判断してもらうが、私のような“どうするべきか”と考えているヤツらは不思議と集まってしまうモノなんだ。世界の歴史を紐解けば必ずこういった出来事は起こっており、集団ができあがっていくのは必然でな。そして、現状で何をすれば“世界を安全に止める”事ができるか…………その答えを見つけるのも…………そう、お前風に言うならば普通の事だった…………」


 「答え?」


 「そう、答えだ」


 「………………」



 雅久は寿々花の断言した言葉に――――――――僅かな震えが入っているような気がした。



 「世界にとって手に余る凄まじい力を作り、その四つの力全てを“どの世界にも関与しないたった一人が持てば”もう各世界は迂闊に戦争など行えない。それが現状で打てる唯一の手だった」



 寿々花は静かに雅久を指さす。



 「そうなれば各世界で戦う意味はなくなる。そんな事より、その圧倒的な力を持つ者を味方に引き入れる方が遙かに大事だからな。その力があれば戦争など一瞬で終わらせる事ができるのだから。そうなれば戦争という外交はただの馬鹿高いコストにしかなり得ない」


 「うーん、凄まじい力って……なんかあっさり言うな……」



 寿々花の話がが身の回りを飛び越えたような内容なので、雅久はギャップを感じてしまう。



 「雅久の世界には核兵器というモノがあるだろう? 世界を終わらせる力を造るのは大変だとしても、別に不可能ではないという事だ。それに“ボタンさえあれば”個人で扱えるという事もな」



 ボタン、その言葉を寿々花は雅久の目を見て言った。



 「そのボタンがオレ………………って事なのか……?」


 「そうだ。私はお前を世界のバランサーにしたんだ。その気になれば“あっさりと世界を滅ぼせる存在”にな」


 「………………」



 寿々花の言っている事は酷く矛盾しているが故に理解できる。


 世界というような“得体の知れない理不尽”を止めるための矛盾は必ず起こるモノで、それは“どうしても仕方の無い事”なのだ。



 「………………てことは」



 露木雅久はその理不尽にされた。


 世界を鎮める可能性を持った生け贄にしたのだと。


 寿々花はそう言っている。



 「や、やっぱ今日起こった事は全部…………す、寿々花姉ちゃんのせいだったのか……」



 雅久の頭がワナワナと震え出す。



 「という事は、知らず知らずの間にオレの体は機械になってるって事かぁぁぁぁ!? 血は紫色で首が外れても気付かず外を歩くような化け物にぃぃぃぃぃ!?」


 「凄いです露木さん! 進化の極みですッ! やっぱりサインください!」


 「そんなワケのわからん改造をする意味がわからんぞ」



 雅久は勝手な妄想をして、それに焦がれるシスリーを横目に寿々花は無表情で呆れた。

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