第22話 普通に知られる事のない出来事

「はぁ? そんなワケないでしょ。レストランに入ったら店員が席案内するもんでしょうが」


 「私、このレストランに入ってこの席に座っただけです。誰もいないから勝手に席に座らせてもらって、その後にトゥトゥラちゃん達が来ただけですよ? 誰かに案内とかされてないです」


 「……………………」



 のそりとトゥトゥラは起き上がる。



 「……ちょっと待って。じゃあ何? あんたは勝手にこの席に座っただけで、案内されたワケじゃなく他に客はいなくて…………さらに呼び鈴ならしても誰も来ない…………ココはそういうレストランって事?」


 「そうなんじゃないですか?」


 「そんなワケないでしょッ!」



 トゥトゥラは立ち上がると、すぐさま周囲を警戒する。



 「どうしたんですかトゥトゥラちゃん?」


 「あんた変だと思わないの!? このレストラン“私達以外いない”のよ!?」



 苦虫を噛みつぶしたようにトゥトゥラの顔が歪む。



 「しまったぁぁ…………もっと早く気付くべきだった……今までの都合良すぎる流れを思えば怪しさ全開じゃない……ぐううう……私とした事が……」


 「そのセリフ、前も言ってましたね」


 「うっさいわ!」



 店内にシスリー達以外誰もいない事実。


 そして、これまでに起こっている異様な偶然…………いや、計画。



 「何かやるなら入店時にするはずよね…………すぐ何か起こるってワケじゃなさそうだけど」



 流れているBGMや特に目立つ所の無い店内の様子が不気味に見えてくる。



 「何か起こったり…………するんでしょうか?」


 「……………………」



 そう、まるでシスリー達を飲み込んだ怪物の胃袋の中でもいるかのような。



 「ちょっとモデル女達呼んでくるわ。あんたは露木の所に行って」


 「わかりました!」


 「…………一応言っとくけど、いきなりドア空けるんじゃないわよ」


 「え? なんでですか?」


 「そりゃアイツのいる所が男子トイレだからに決まってるでしょ」


 「男子トイレだといきなり空けるのがマズイんですか?」


 「だっていきなり開けたら……あんた……その……もしかするかもでしょ……」


 「もしかする?」


 「だから……その……用を足してるだろうから……よ……」


 「用?」


 「あんたワザと聞いてんでしょッ!?」


 「もう、トゥトゥラちゃん失礼ですね。ワザと何度も聞くなら、もっとワザとらしくやってますよ」

 「だああああ! もうどっちでもいいわッ! とにかく露木を連れてきなさいッ!」



 シスリーの背中をドンッとトゥトゥラが押した時。




 ゴォッ! と、強烈な音が聞こえた。




 「――――――なッ!?」


 「――――――わッ!?」



 その音の正体は、二人の目の前を突き抜けていった巨大な光の塊だ。


 強烈な日差しやストロボのような眩しいだけの光ではない。あらゆるモノを飲み込み消滅させようとする、暴力の光だ。


 偶然とはいえ、もう少し遅く背中を押していたらシスリーはこの光線に“抉られて”しまっただろう。



 「な、なんですか今のッ!?」


 「危なかったわ……まともにくらってたら――――――」





 そして、その過ぎていった光の塊は花火のように店内へ拡散しビー玉のように床へ転がって――――――その時。





 「――――って、ちょっとッ!?」




 爆発。



 光の散った場所で、レストランが崩壊するのに充分過ぎる破壊が起こり、シスリー達は思い切りソレに巻き込まれた。









 この爆発でレストランは一瞬で瓦礫と化し、その爆発の激しさは災害と呼ぶに相応しいレベルだった。


 なので、こんな事が起これば明日のニュースで騒がれるのは当然だ。こんな凄まじい爆発なら、警察や消防署、野次馬もすぐに集まってくる事だろう。



 だが、この爆発が世間で騒がれる事はなかった。



 なぜならレストランの場所が“偶然”町から離れており、“偶然”レストラン近くの道路に車は走っておらず、さらに“偶然”人も歩いていなかったからだ。


 そして、この爆発音を遠く離れた場所で聞いた者も“偶然”いなかった。いや、正確にはいたのだが「なんか大きい音聞こえたな」という程度で、一分後には他の話題に埋もれてしまい、気にする者はすぐにいなくなっていた。


 そのため、ここで爆発が起こった事を知る者はいなかった。なので、ここに駆けつける者はいない。


 気付かれる要素が一切排除されており、世界から完全に切り取られている。それが雅久達のいる場所だった。


 だから“この世界”でこの爆発が事件としてこの先騒がれる事は絶対に無い。




 そう、“この世界”では。

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