第19話 普通のレストランでの五人の会話

「ソファー大きいですね! ほら! 机も寝そべられるくらい広いですよ!」


 「お行儀がよくないよーシスちゃん。それにレストランに来たらねー。まずはメニューのチェックをしないとー。お腹と背中がくっついちゃうからねー」


 「そ、それは大変ですッ! まさかレストランにそんな空間特性があるなんて……一刻も早くメニューを見なければいけませんッ!」



 雅久を捕まえた後、近くにあったレストランに五人は入っていた。


 珍しかったのかシスリーがいち早く店内に入り席を確保し四人もそれに続く。店内に客は誰もいないため喧噪はなく「こっちですよー」と叫ぶシスリーの声がやたら響いて聞こえた。


 店内はリラックスできる落ち着いた有線が流れており、ガラス窓からは眼下に町が一望できる。ちょっとした高層ビルから見た眺めのようだ。今はまだ夕方だが夜になれば綺麗な夜景が見える事だろう。



 「レストランって色んな食べ物置いてあるんですね。何にするか凄く迷っちゃいます。うーん、スパゲッティ美味しそうですけど、ハンバーグもいいですね。うーん、うーん、うーん…………ぐーぐーぐー……」


 「起きてシスちゃーん。寝たら食事ができなくなっちゃうよー?」


 「ハッ!? す、すいませんレナさん……ご飯の説明文見てたら眠くなってしまいました……」


 「活字はねー。眠気を誘うもんねー」


 「たしかにその通りです。私も文字を三行以上読むと眠気に襲われるのでスティアードの言う事は理解できます」


 「そうだー、写真を見て決めればいいんじゃないかなー? そうすれば文字を目に入れず何を食べるか決められると思うよー」


 「す、凄いですレナさん! 天才ですッ! 全然眠くならず何を食べるか選べますッ! メニューの最後までたどり着けました!」


 「お役に立てて光栄だよー」


 「フィルナート。画期的なメニューの読み方に気付いた事は凄いと思いますが、その程度で調子に乗るのはどうかと思います」


 「ベルちゃんは何を頼むか決めたの?」



 シスリーがリーンベルが睨んでいるメニューをのぞき込む。



 「頼みたいモノはあるのですが……これは何と読むのでしょう?」


 「あ、ベルちゃんこの世界の文字に慣れてないんだね。うんうん解るよ。まだこの世界に来て一日も経ってないんじゃね。読めない字がいっぱいあっても仕方ないよ。私、この世界に来てさ。コーラとしょうゆを間違えて飲んじゃった事あるし。アハハハ」


 「私をあなたと一緒にしないでください。読めない文字がいっぱいあるなどありえません…………というかベルちゃんってなんですか?」


 「ん? リーンベルだからベルちゃんだよ。いい呼び名だと思うな」


 「スティアード、私を呼ぶなら本名で呼んでください」


 「えー、そんな! ベルちゃんって呼び名可愛いのに。もったいないよ。うーん、それならベルルンってどう? こっちの方が可愛いかも」


 「嫌です」


 「うー! レナさんはベルちゃんの事をリンちゃんって呼んでるのに……」


 「…………フィルナートはもう手遅れのようなので諦めました」


 「あ、ベルちゃんが読めないってのはどの漢字なの?」



 リーンベルは相変わらずメニューを睨んだまま、料理の一つを指さした。



 「この漢字が読めないのですが」


 「えっと、これはね。チョコレートパフェって読むんだよ。あ、そっちはベイクドチーズケーキね」


 「なるほど。そう読むのですか。漢字は難しいですね」


 「ホントだよね。私もいっぱい覚えなくちゃ。よーし、今日ベルちゃんが覚えた漢字は、チョコレートパフェとベイクドチーズケーキ。よし、完璧! 長い漢字覚えたねッ!」


 「「お前達ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」」



 シスリー、リーンベルの二人が(レナもか?)メニューを見てワイワイ騒いでいるのを黙って見ていた雅久とトゥトゥラの二人は、沸騰したヤカンのように叫び声を上げた。



 「オレが黙ってるとずっとボケボケなのな! たまらんわッ!」


 「なんでそんな積載量オーバーなボケ会話ができるのよッ!?」


 「ホントだよお前らッ! つか、何でメニュー読むくらいで眠くなってんだ! 世の中の物書きに謝れ! 文字を作った先人に全力で謝罪しろッ!」


 「そうよッ! メニューの何処に眠たくなる要素があるのよッ! それは、ただ眠たいだけでしょーがッ!」


 「あと、そこのボケ幼女とボケ女ッ! お前が読めないのはカタカナな! カタカナって言う文字な! 断じて漢字じゃねーから!」


 「カタカナを漢字っていうなら、元からある漢字はなんなのよッ!? どんな別言語だっていうのッ!?」


 「ホントだよッ! ちょっとはまともな会話をしろよお前らッ!」


 「そうよッ! あんた達のせいで注文できないでしょうが! 私はさっさとハンガー&レキン南蛮頼みたいのよッ!」


 「トゥトゥラさん!? ここまでツッコミを続けてきて、あんたはなんでそんな読み間違いしてるのかな!?」



 そんな会話をしばらく続けて――――――――――――続けて各々が注文したいモノが決まる。

 

 シスリーが呼び鈴を鳴らすと店内に電子音が鳴り響いた。


 普段気にしない音だが店内に誰もいないためやたら響いて聞こえる。



 「よし………………じゃあ、注文も決まった事だし本題に入りたいんだが」


 「え? 食べるモノ以外で何の話をするんですか?」


 「このオレの事に決まってるやろがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 それ以外何があるんだと言うように雅久は自分を指さした。



 「このオレの体に四世界の秘薬が入ってるとか絶対におかしいぞッ! 何かの策略としか思えん!」


 「たしかにねー。しかも示し合わせたみたいにさー。私達四人が露木君の前にー、現れたしー。コレってさー、偶然って呼ぶには無理があるよねー」


 「そうね。秘薬の出所は全部峰(みね)途(と)商店。露木の体に四つの秘薬、私達四人がほぼ同じタイミングでこの世界に来ている事。あまりにタイミングが良すぎるわ」


 「別に何も変な所は無いと思いますが? ただ露木雅久が峰途商店に隠されてた四つの秘薬を得て私達四人が今日やってきただけではないですか」


 「そこの幼女ぉぉぉぉぉ! なんでそこまで語れるのにオレとか現状の流れとか色々と異常に思えないんですかねぇぇぇぇぇ!?」


 「私は異常な事でもトゥトゥラちゃんと会えたから嬉しかったけど……エヘヘ……」


 「な、何をバカな事言ってんのよアンタは……」


 「シスリーさんとトゥトゥラさん!? おかしな和み空間作るのやめてくれません!?」



 もう何回目かしれない雅久のツッコミが迸る。



 「だぁぁぁぁぁもう! ったく…………でもこれでますますはっきりした。無理にでも寿々花姉ちゃんの所には行くべきだな」



 ただでさえ怪しいのに、ここまで状況が揃うと峰途寿々花が関わっているのは明白すぎる。


 どう考えても中心にいる人物に間違い無く、なんとしても寿々花に会うべきだろう。


 一体何を何処まで知っているのか。また何をしようとしているのか。


 それを聞く必要がある。

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