第18話 ついに揃った普通の5人

「そんなバカな!? そんな偶然あるのかッ!? 何かの間違いだろッ!?」


 「間違いと言われてもー。君が昨日ポテチを買ったのは間違い無いしねー。その辺はちゃんと調べてわかってるんだー。秘薬開発者のミネ・ルトス・逗火(ズカ)とも知り合いみたいだし、そこんトコも聞かないといけないなー」


 「恐ろしい偶然もあるものです。おまけに最強の魔界力(ディスダッド)と究極の覚醒力(ジュナイゼル)まで手に入れていますし……まるで神に遊ばれているかのように思えます」


 「お前ら何でそんなに納得してる感じなの!? 何処まで純粋無垢だというの!?」



 相変わらずソウルマフラーに巻かれたまま雅久はピョンピョンと飛び跳ねた。


 たしかに昨日、雅久はポテチとポカリを買って食べて飲んだ。だが、それが二人の探す秘薬だなんてあまりに偶然すぎる。


 いや、あんパンとコーヒー牛乳の件も含めて“誰かの用意した”としか思えない。


 あまりに必然すぎる。



 「そこは私の考える所ではありません。よくわかりませんので」


 「お前って頭の良い感じに見えるけどアホの子なのな!」


 「まあ、たしかに怪しいよねー。誰かの作為がビンビンでー。四つの秘薬が同じタイミングで何処かの知らない人に入ってるとかー。おかしいとしか思えないよー。露木君大変だねー」


 「その心配、すっげぇめっちゃカラ心配よな!」


 「なるほど…………うん、さっぱりわかりません。つまりどういう事なのですか露木雅久?」


 「お前、さらに思った以上アホの子な!」



 呆れながらも雅久は叫んだ。



 「まあ、理解する必要はありませんね。何であろうと露木雅久を連れ帰り絶対の属性力(アリアルド)を手に入れる事に変わりはありません」


 「露木君の中に四つの世界の命運を握る鍵が眠ってるなんてねー。それだと無視する事は難しいよねー」



 レナとリーンベル、温度差はあれど両者の緊張が冷えた空気となって満ち始める。



 「ではフィルナート。その人間は私がもらいうけます」



 再度二人は衝突、リーンベルの攻撃が放たれる――――――――――――と、思われたのだが。



 「お、ふぐッ!?」



 リーンベルの間抜けな声と共に、放った攻撃がレナに届く前に突如消え失せた。


 リーンベルの上に“何かが落下したせいで”そのショックりにより属性力の集中が途切れてしまったのだ。



 「あいたたたた…………って、アレ? あまり痛くないですね? 何故でしょう――」



 瞬間、その“落下人”の目が輝き出す。



 「――――って、誰ですかこの小っちゃい女の子はッ!? あ! クッションにしちゃってごめんなさい!」



 リーンベルの上に落下したシスリーはその衝撃で倒れ込んでしまったリーンベルを即座に抱き起こしてそのまま抱きついた。



 「ひゃー! 可愛いですッ!」



 大好きなぬいぐるみを見つけたかのように、リーンベルの頬へシスリーの頬が擦りつけられその愛を周囲に見せつける。アニメだったら間違い無く頭の上にハートマークがいくつも浮かぶ描写をされる事だろう。



 「ぬぐ……だ、誰ですかあなたは……?」


 「わー! 喋ってる姿も凄くかわいいですーーッ!」



 リーンベルは状況が理解できておらずシスリーのされるがままだ。登場の仕方はともかく敵意が無いのは明らかなので戸惑っているようだった。



 「だあああああッ!」



 そして、二人目も空からすぐに登場する。



 「あの煙幕はあんただったのね。結構驚きだわレナ・フィルナート・千尋(ちひろ)」



 覚醒拳(グラディウス)と同じく、足先へ単純に覚醒力を集中させた流星蹴(フルブライト「)で雅久とレナの間に浮くソウルマフラーを断ち切り華麗に着地した。


 レナはトゥトゥラを見て少し驚いたように言った。



 「さすが一撃必殺の正義界(セイントフォース)だねー。ソウルマフラーがあっさり切られちゃったよー」


 「ふん、今後は目の前だけじゃなくて奇襲にも気をつけとくのね」


 「え? 何? 何? お前らって知り合い――――――あだッ!」



 巻き付いていたソウルマフラーが突然消えて雅久は地面に落ちた。


 トゥトゥラがソウルマフラーを断ち切ったからだろう。千切れた部分から先は消える仕組みのようだった。



 「知り合いじゃないわよ。ただ、コイツが有名人ってだけ。レナ・フィルナート・千尋(ちひろ)って言えば冥府界(エンドレシア)屈指の人気モデルなのよ。だから知ってんの」


 「モ、モデル? そーいえば、なんかそんな事を言ってたな……」



 アレはそういう意味だったのかと納得する。



 「でも、よくオレの居場所がわかったな? どうやってここが解ったんだ?」


 「シスリーが防衛黙示録(ブラストバイブル)の一部をあんたの靴に仕込んでたのよ。バカなくせして抜け目ない事してるわ。感謝しときなさいよ」



 言われて靴を見ると踵の辺りに紙切れが入っていた。こんなモノが靴の中に入っていたとは全く気付かなかった。



 「てか、なんであんた見たいなヤツが露木を攫うのよ? コイツは正義界(セイントフォース)と悪党界(ブラッドブラック)の重要人物だから、勝手な事してると両世界から目をつけられるわよ?」


 「あれー? どうやら君は冥府界(エンドレシア)と天国界(レイレーン)の事情を知らないみたいだねー」



 少し困ったようにレナは頭を掻き始める。



 「悪党界(ブラッドブラック)と正義界(セイントフォース)だけじゃないんだよー。露木君は冥府界(エンドレシア)と天国界(レイレーン)とも関わっちゃってるんだー。困ったよー、四世界の命運を握る力がこの世界にいる普通の男子の中にあるっていうんだからー」


 「…………は? ど、どういう事よそれッ!?」



 軽いレナとは対照的にトゥトゥラの顔がどんどん曇り始める。



 「ハッ!? あまりの可愛さに我を失っていました。ひょっとしたら迷子かもしれないのに。い、いけません! そうだとしたら大変です! 迷子ならお母さんかお父さん探してあげなきゃ! でも、どうやって聞けばいいんでしょう? キャンディとかチョコレート持ってれば簡単ですけど……」


 「一人で勝手に盛り上がって私を馬鹿にするのやめてもらえませんか」


 「いや、待って。もしかしたら家出かも…………家族と喧嘩して飛び出したのかもしれません。だったら説得しなきゃですね! よし! じゃあ最初は名前を知る所から! ねぇ、お姉さんに名前を教えてもらっていいかな? 私はシスリー・末(すえ)露(つゆ)・スティアード。わかる?」


 「話を聞いてない上、さらにバカにされた気がします」



 勝手に慌てているシスリーとは対照的にリーンベルの顔がどんどん冷たい真顔になっていく。



 「なんでよ!? ちょっとそれあり得ないわ! 偶然があまりにも過ぎるでしょ!」


 「それはねー、私も思う所なんだけどねー。でも、誰かの仕業としたら一体誰がこんな事やったんだろうなー。凄く面倒くさい事してると思うんだけどさー、ハハハハー」


 「他人事のように笑うのやめんか! 自分の世界に関わる事でしょうが!」


 「いやー、だって四世界の秘薬がこの世界にあるってだけでもさー。凄いじゃないー? アハハハー、だからねー? もうハハハーってねー。かなりツボだよねー。アハハハー」


 「え? 何で? なんでこのモデル笑ってんの? 何処がツボなの? え? え?」


 「あー、そうそうー。実はねー、大変な事に気づいちゃったんだー。これはもの凄く真面目な話になるんだけどー」


 「な、何よ?」


 「激しくお腹がすいたー。何か食べたいよねー?」


 「重要っぽいように言うなッ! 会話の流れに焦るわ!」


 「露木君ー、何処か食事できる場所とか近くに無いのかなー? 正義界(セイントフォース)の人がいるからねー。ひとっ飛びで行けるからー、少し遠くても大丈夫と思うなー」


 「なんで私をタクシー代わりに使う気満々な事言ってんのよ!?」


 「ここは色々と話すには不向きだしー。何処か落ち着いた場所にねー。空飛んで行こうと思うのは普通だと思うんだけどなー」


 「空飛ぶは余計でしょ!」


 「ううー。力が抜けてきたー。このままじゃ元気の無い喋りになっちゃうよー」


 「あんた、元から抜けたような喋りでしょが!」


 「あれー? 何だかさっきから君ってー、露木君とポジション被ってないー?」


 「それはアンタのせいでしょ………………って」



 そこでトゥトゥラは気がつく。



 「…………あら? 露木のヤツ何処に行った?」



 周囲を見渡すが雅久の姿が無い。シスリーがリーンベルを愛でているのは確認できるが、それ以外に人の姿を確認する事はできなかった。



 「そういえばさっきから露木の声聞かないけど……これってもしかしてまた……」


 「あ、トゥトゥラちゃん。さっき露木さんが向こうへ走り去っていったんですけど、一体どうしたんでしょうね。トイレでしょうか?」


 「あんた見てたんなら止めなさいよッ!」


 「え? 露木雅久はトイレに行ったのでは?」


 「あんたも見てたんかいッ!」



 シスリーとリーンベルがダブルで見逃していた事にトゥトゥラは頭痛がした。



 「とりあえずそんなボケはどうでもいい! さっさと雅久が何処に行ったか探しなさいよッ!」


 「…………あれ? 防衛黙示録の反応が無いです? 靴の中に仕込んでたはずなのに」


 「あー、そりゃ捨てるか……発信器ついてるの知ってて、そのままにしてるバカはいないわよね…………」



 教えたのはマズかったかとトゥトゥラは苦い顔をした。



 「全く、悪党界(ブラッドブラック)も正義界(セイントフォース)も情けないですね。ちょっと遠くに逃げられたくらいでお手上げとは。対象の探索手段くらい用意して当然だと思いますが」


 「フン、なによ? じゃあおチビちゃんは雅久が何処にいるかわかるの?」


 「いえ、全く」


 「なら、なんでそんな偉そうに言った!?」


 「慌てる事ないよー。私のソウルマフラーを使えば問題ないからー」



  助け船のごとくレナが会話に混ざってくる。



 「何よ? 露木の居場所がわかるっていうの?」


 「露木君の居場所はわからないけどねー。露木君の近くにある飲食店の場所は解るよー」


 「何なの、その使えるのか判断しにくい仕様のレーダー機能!?」


 「すごいです! どうやってるのか教えて欲しいです!」



 シスリーの目がキラキラと輝き出す。



 「いいよー。じゃあ分担でさー。私は美味しいご飯を担当するからー。あなたは美味しいデザートを担当して欲しいなー」


 「任せてください。これでも私、さくらんぼやほうれん草には結構うるさいんです」



 ドンッ! と、シスリーは自信満々に胸を叩く。



 「ちょっと待ちなさいっての! 結集力でやれる事を魔界力でやれるワケないでしょが!」



 電波な内容が続く話題にトゥトゥラは稲妻のように割って入った。



 「大丈夫だよー。露木君の逃げた先は私が見たからー」


 「だったら始めからそう言いなさいよぉぉぉぉ!?」



 そしてトゥトゥラも巻き込まれる。



 「ふう…………食べ物の話をしてるからお腹がすいてきましたね。さっさと手頃な飲食店を探して欲しいモノです。まあ、飲食店というモノが何なのかは知りませんが」


 「私達が探すのは露木雅久であって飲食店では無いッ!」



 と、なんやかんやと言い争いが行われながらも雅久の探索は開始された。


 そんなに遠くへ行ってなかったので雅久はすぐに見付かったが、ボケ集団であるシスリー、レナ、リーンベルの三人に捜索中もボケ会話を続けており、それにツッコミを続けていたトゥトゥラは必要以上に疲れる結果となった。


 よって、トゥトゥラは雅久を見つけると同情を求める顔でこう言った。



 「あんた勝手に逃げないでよ! コイツらにツッコミ入れ続けるの大変なんだからねッ!」


 「オレが言うのもアレだが、お前言う事違くない?」



 頭を抱えながらそう言ったトゥトゥラの顔を雅久はこの先ずっと忘れない気がした。

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