第16話 普通に狙われ続ける普通の中学生
「ぎゃあああああああああああああああああ!」
滝のように勢いある炎は、命中した瞬間死ねる代物だ。
炎なのに何故かズッシリとした重みがあったが、そんな異常を思う冷静さは目の前で起こっている光景で吹き飛んでいる。
死ぬ! 死んだ! としか、今の雅久には考えられなくなっていた。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
しかし、死ぬ所か何故か痛みも熱さも全く無い。雅久がずっと変わりなく大声で悲鳴を上げているのが何よりの証拠だ。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
どうやら、雅久に巻かれているこの布が攻撃を防いでくれているようだった。原理は全くわからないが、それしか理由をつけられるモノが無かった。
まあ、何にせよ雅久の体は無傷である。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
では、それなのに何故雅久は叫び続けているのか。かすり傷一つ負ってないのに、何をそんなに恐怖しているのだろうか。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
その答えは簡単だ。雅久の位置は固定されたまま動かず、ずっと続く火柱の攻撃を浴びるように受けているからだ。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
そう、つまる所盾代わりにされているのだった。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
メッチャメチャ怖がっているのだった。
「ぎゃああああああああああああああああ!」
それはもうめちゃくちゃ怖がっているのだった。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
繰り返しになるが顔はノーガードだ。当たったら想像通り(顔面蒸発)の死が待っている事だろう。
「ぎゃあああああああああああああ!」
四散した炎が周囲の草木に舞い落ちるも、何故か火事になる様子は無い。空気に溶け込むように消え失せるだけで何も起こらなかった。
「ぎゃああああああああああああああ!」
悲鳴は止まらない。
別に痛みや怪我があるわけではないが、火柱が自分にブチ当たっている光景は最強最悪のスリルだ。悲鳴が出ない方がおかしいというもので、こんな現状に晒されて平然を保つ事などできるわけがない。
「次はそこかなー」
レナが手をスナップして布をひっぱると、ぐいーんと雅久の位置が右へ大きく移動した。
「ぎゃああ――――こ、こんどはなん――――――にッ!?」
火柱がやっと終わったと安堵するもそれはつかの間、こんどは槍のように尖った水流が乱れ飛んできた。レナの盾のごとく存在している雅久は、当然それを余すこと無く全てその身で受けきる。
弾かれた水流は地面に“突き刺さり”その後パシャンと音を立てて地面に染みこんでいった。
「でええええええええええッ!?」
そう、突き刺さった。ドスッと突き刺さり地面が抉れたのだ。木の幹を貫通したモノまである。さっきは顔に当たると蒸発コースだったがこっちは貫通コースだ。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
中止を訴えるもレナは雅久を盾にする事をやめない。雅久の悲鳴など聞いておらず懸命な面持ちで水流を防いでいる。
さらにこんどは正面から刃のように鋭い“風圧”まで飛んできて、下からは拳の形をした“地面”が突き出す。もちろん、それらもレナは雅久を盾にして全て防ぎ続けた。攻撃箇所が多いのでレナ本人に届いた攻撃もあったが数発程度だったので問題無い。レナはそれらを難なく回避していた。
「ふう、あぶなかったー。何とか無事に済んでよかったねー」
レナはホッと一息つく。
「無事じゃねぇぇぇ! いや、無事なんだけど何だかホッとできねぇぇぇぇぇ!」
相当数の攻撃を受けたが鉄壁の防御だったらしく雅久は無傷だ。だが、恐怖感は半端じゃなく雅久は猛抗議した。ピョインピョインと跳ねる姿はとても滑稽だったが。
「大丈夫大丈夫ー、心配ないってー。君に巻き付いてるソウルマフラーは充分な結集力で編まれているからねー。並の攻撃じゃビクともしないよー。実際、さっきの攻撃にさらされても無傷でしょー?」
「なんで“無傷でしょー?”って疑問系!?」
「まあまあー、ちょっとしたアトラクションと思えば平気だってー。ジェットコースターとかー、バンジージャンプとかー、スカイダイビングとかー」
「なんかアトラクションがどんどん危険になってない!? つか、さっさとオレを解放しろ――――――」
「――――っと、ここで会話はお終いにした方が良いみたいだねー」
そう言ったレナの視線の先。つられて雅久はその方向を見ると、小さな女の子がいつの間にか立っていた。
「………………」
優に二メールはある大きな杖を持っているのが印象的で、装飾に溢れた白いローブに身を包むその姿は実に可愛らしい。小学生低学年くらいの背丈で幼さの残る顔立ちのせいなのもあって、その可愛らしさがさらに強調される。
シスリーと同じような衣装を着ているのに違って見えるのはそのためだろう。シスリーが魔女ならこの少女は幼き導師とでも言うべきだ。きっとレナとは違った意味で振り返る男性は多いに違いない。
まあ――――――――見た目そのままだったら、の話になるが。
「フィルナート。さっさとそこの男を渡してください。でなければ命の保証はできかねます」
顔は可愛らしくても声と視線は冷徹に。
杖の先端に携えた“火球”をレナに向けて少女は警告を告げた。
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