第15話 レナ・フィルナート・千尋(ちひろ)という普通の女性
「ぬぐ……うう…………うん?」
雅久の目がパチリと開いた。倒れている身体を確認するにどうやら自分は眠っていたらしい。
いつから寝ていたのかと思考が動き始める。
しかし、そんなはずは無い。
ほんのついさっきまで自分はシスリーという天然女とトゥトゥラという粗暴女の二人と一緒だったのだ。突然眠るなどありえない。
あの時――――白い煙に包まれた後、目の前に誰か現れて何かショックを受けたような気が――――――そして、さっきまで何か夢を見ていたような――――――
と、そこまで思考が追いつき。
「な、なんじゃこら……」
雅久は自分の状態を理解した。
何故か包帯でグルグル巻きにされたかのように、全身を淡く輝く布が巻き付いている。指先がほんの僅か動くだけでそれ以外は全く身動きがとれなかった。
顔には巻き付いていないが、これは息ができない事でも考慮してくれたのだろうか。理由は不明だが、とりあえず視界は良好だ。
そのため、視線の先に見ず知らずの誰かがいる事にすぐ気がつけた。
「おお、もう目が覚めたのねー。もうしばらく眠ってると思ったけど、これは最強の魔界力(ディスダッド)と究極の覚醒力(ジュナイゼル)によるものなのかなー?」
目覚めた雅久に気がつき振り向いた女性は何の邪気も籠もってない、のほほんとした声でそう言った。
「ふふふー、おはようございまーすー」
女性は王宮の舞踏会にでも出るような華美なドレスを細い身体に纏っており、頭にティアラのような装飾品が乗っている。座っているためスカート部分から少し見えた靴は宝石のような輝きを放っており、まるで何処かのお姫様とでもいうような出で立ちだ。
さらに整った顔立ちがその印象をさらに強くさせ、引き込まれるような大きな瞳と淡い色をした口元に思わず目が行ってしまう。すれ違った男の誰もが振り向くオーラと気品にこの女性は溢れていた。
「…………誰?」
だが、この現状でそんなのんきな事を思える程雅久の神経は図太くない。
現状理解のため口から出た第一声は女性に対する好意ではなく、純粋な疑問の発言だった。
「まあ、そうだよねー。この世界で私の事知ってる人がいるわけないかー。でも、そう知っててもちょっぴりショックかもー」
「あのー? ホントに誰かわからねーんですけど」
なんだなんだ? 電波系か? これが相手の話を聞かない聞けない聞こうとしない三原則を持った電波な人なのだろうか?
「私レナ・フィルナート・千尋(ちひろ)って言うんだー。よければ覚えておいて欲しいなー」
だが、名を名乗るくらいの良識は持っているようだった。
「いつかこの世界にも撮影に来たいと思ってるからさー。あ、私モデルしてるの。それなりに人気あるんだー。ホントだよー?」
「は、はい?」
だが、その良識はこの後ガラガラと崩れ始める。
「でも、仕事中は撮影禁止だからねー? 私個人としては別にいいんだけどねー、周囲がそれを許してくれなくってー。まあ、色々あるんだろうねー。とりあえず従っとかないとなーって。問題はできるだけ起こしたくないじゃん?」
「ちょ、ちょっと待って……一体何の話を……」
「はー、なんでみんなもっと仲良くできないんだろうねー。世界はもっと優しいと思うんだけどさー。必ず戦争は起きちゃうし、もっとみんな周囲を認めようよって思わないー? ふー、争い事ってどうしようもなく終わる気配無いよねー」
「だからさっきから何の話をしているッ!?」
ピョインと自身の身体を跳ねさせて雅久は訴えた。
「なんだよ撮影って! 優しい世界って! 意味わからんわ! てか、オレをここまで連れてきたのはお前か!? そんで、オレをこんな風にしたのもお前なのか!? そしてもっとも根本的で根源的な質問でお前は一体何者だッ!?」
「うわー、いっぱい聞かれたなー。そしてよく喋るねぇ君」
「それはこっちのセリフじゃああああ!」
「あと、よく動けるなー。アハハハハ」
「オレはお前のオモチャじゃねぇぇぇぇぇぇ! 早くこの拘束を解かんかッ! あと、その上から目線な笑いやめろッ!」
少し前にも似たようなやり取りをした気がするが、とりあえずその思考は隅に追いやる。
「色々と答えてあげたいし拘束も緩めてあげたいんだけどねー。ちょっと暇が無さそうかなー。流れ弾に当たるのも危険だしねー」
ハハハと笑いながらレナは頭を搔いた。
「あの子に見つかっちゃったみたいだからさー」
「……へ? あの子? 流れ弾? …………ん? 待てよ? さっきお前さらっと“戦争”って言ったよな?」
その聞き覚えありすぎる単語が雅久の頭に突き刺さる。
「その変な格好からして…………まさか悪党界(ブラッドブラック)か正義界(セイントフォース)のヤツなのか?」
「ざんねーん。私はどちらでも無いよー。でも、攫うって目的は一緒。露木君の中に眠無限の結集力(グルバウナ)を取り出すためにやってきたのー」
「グル……バウナ? まさか…………おい、もしかしてそれって……」
物凄く嫌な予感が雅久の脳内に走る。
「大丈夫ー大丈夫ー。ちょ~っと私の世界の冥府界(エンドレシア)に来てもらってー、ちょ~っと凄い量の痛み止め射してー、ちょ~っと全身串刺しにしてー、ちょ~っと身体が干からびるくらいの血液もらってー、ちょ~っと身体の八割くらいの皮膚もらって無限の結集力(グルバウナ)を取り出すだけだからー。ね? 大丈夫でしょー?」
「何もかもが大丈夫でも簡単でもねぇよぉぉぉぉぉぉ!? つか、やっぱりこの展開なのッ!? アイツらだけじゃなかったっていうのかぁぁぁぁぁぁ!?」
ピョインと跳ねつつも頭をブンブン動かして雅久は嘆いた。
「うわー、またそんな器用な動き――――――っとと?」
何処か気の抜けたレナの雰囲気が変わったかと思うと、フワリと雅久の身体が浮かび上がる。
「――――え?」
そして、ほぼ同時に空から降ってきた“火柱”が雅久の腹部に激突した。
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