第10話 シスリーとトゥトゥラの普通の先頭最中
「どぉですかッ!」
避けられまいと言わんばかりにシスリーはガッツポーズをした。
ページは束になればなる程攻撃力も防御力も増す。ページを十枚以上重ねて複数の箇所から攻撃させるのはシスリーの常套手段である。
だが“十機”もの赤色頁インハルトを扱うのは初めてだ。今までは三機が限度だったので、トゥトゥラは激増している赤色頁インハルトを見て慌てている事だろう。
「く……」
十カ所からの同時攻撃。この多面攻撃をトゥトゥラは苦い顔をしながら、やっとの思いで防御を繰り返していた。
「うむむ……トゥトゥラちゃん意外と耐えてます……」
防げている事にシスリーは驚くが、それは長く続かないと自分を落ち着かせる。
ペースは完全にこちらが握っている。このまま攻め続ければ勝利できる事だろう。トゥトゥラが十カ所からの赤色頁インハルトに手こずっているのは間違いないのだから。
このまま攻め続ける事ができれば勝てる――――――――――――そう、攻め続ける事ができれば。
「調子に――――――のってんじゃないわよッ!」
その声を引き金としたのかトゥトゥラの身体がさらに眩しく輝いた。その瞬間、纏われていた光が解き放たれ思わずシスリーは目を覆う。
「はああああああああああッ!!」
突如、周囲に吹き荒れた覚醒力によりトゥトゥラの周囲を飛んでいた十個の赤色頁インハルトがコントロールを受けつけなくなってしまった。
端からみればシスリーの叫びに赤色頁インハルトが竦んでしまったように見えるだろう。
「く…………トゥトゥラちゃん、こんな事できるようになったんですか……!」
別に完全停止したワケではない。
止まるのは時間にして二秒だけだ。二秒経てばコントロールは回復し、すぐにトゥトゥラの周囲を素早く飛び交い光線を発射する。
しかし、それは致命的だ。
戦闘に置いて二秒間の停止はあまりにも大きい隙である。
「ふっ!」
吹き出す覚醒力はそのままに、停止した赤色頁インハルトへトゥトゥラは即座に目を向けた。
「たああああああああああッ!」
気合いと共にに放たれた拳は赤色頁インハルトを貫き、その瞬間バサリという音と共にページが空を舞った。バラバラになったページは重なり合う事はなく、ただ落ちて消え行く。
「残念だったわねシスリー。私を追い詰める事ができなくて」
魔界力と覚醒力は触れると互いが打ち消し合う性質を持つ。
そのため、トゥトゥラの覚醒力が赤色頁インハルトに込められた魔界力を完全に消滅させたのだ。
「ぐぐぐ…………ちょっと近づけすぎましたね」
赤色頁インハルトは攻撃用なので防御力は皆無に近い。
防御用の白色頁サンライトなら耐える事ができただろうが、それらも含めて大量に飛ばす魔界力と技術は今のシスリーにはなかった。
「アンタが成長したんなら私も成長してるのよ。自分一人が強くなっただなんて思わないで欲しいもんね」
「うう……まさか止められちゃうなんて思わなかったです……」
「ふん、私の覚醒力を舐めるなっての」
正義界セイントフォースの人物であるトゥトゥラが持つこの覚醒力は、身体を主として強化する事のできる力で、魔界力とは大きく違う。
まず、遠距離攻撃ができる魔界力と違って覚醒力は近距離攻撃しかできない。覚醒力は身体から切り離すとすぐに霧散してしまうため、どうしても間合いが狭くなるのだ。
なので攻撃は四肢で直接行うのが主であり、相手に近づく事が必須となる。
そして、相手に接近できるチャンスというのは、そう何度もやってこない。
この前提があるため正義界セイントフォースはまず攻撃力という考えが主流となっており、その一撃は悪党界ブラッドブラックと比べると非常に破壊力のあるものばかりとなっている。
遠距離攻撃が無いため、どうしても少なくなってしまう攻撃回数を火力で補う必要があるのだ。
なので、その一撃は非常に“重いモノ”となっている。
「あんまり時間かけたくないわ。さっさと決着つけるわよ」
至近距離ならばどんな防御も打ち砕き、相手に致命の一撃をくらわせる。
それが正義界セイントフォースであるトゥトゥラの戦い方だった。
「そうですね。早期決着は私も望む所です」
再びシスリーは赤色頁インハルトを本から射出する。先程と同じく十枚一つで合計十個を自分の周囲へ花弁のように配置した。
白色頁サンライトの方は大量に周囲へ展開させ、向かってくるトゥトゥラを待ち受ける。
「さあ勝負です!」
衝撃インパクトの瞬間はトゥトゥラの覚醒力が最も攻撃部分に集まる時だ。
当然、その際は動きが止まるので必中の間となる。回避される事は絶対に無い。
そこに集中砲火を浴びせれば無条件で大きなダメージを与える事ができるだろう。シスリーが狙っているのはその一瞬だ。
「今回も勝たせてもらいますッ!」
だが、それは相手の射程外から攻撃できるというアドバンテージを捨てる事になる。
ハイリスクであり、攻撃集中に少しでも乱れがでれば倒す前に防御を貫かれてしまうだろう。
トゥトゥラの覚醒拳グラディウスの攻撃力は並ではない。さっきの攻撃が全力とはとても思えず、アレが本気で放たれれば白色頁サンライトを百枚は簡単に破る事ができるはずだ。
そして、次に来る“早期決着”のために放たれる必殺技はそれをさらに上回るモノに間違い無い。
「ふん! 偶然は二度も続かないってのッ!」
トゥトゥラは覚醒力を再びその身に宿す。
その暴風は先程よりも激しく、吹き荒ぶ力の本流はトゥトゥラの全力を示し、やがて身に纏うその覚醒力が左足へと収束していく。
「いっくわよ~ッ!」
トゥトゥラはその身に宿る全ての覚醒力を一点に集めシスリーへ爆発させようとしていた。
覚醒拳グラディウスを遙かに超える正真正銘本気の一撃だ。
トゥトゥラはコレをシスリーに防がせるつもりは毛頭ない。例え、特攻防衛黙示録ブラストバイブルのページを全て白色頁サンライトにされても貫通させる自信がある。
だからこそコレは連続で放つ事のできない、ここぞという時でのみ使用するトゥトゥラの超必殺技とっておきだ。
これが決まらなければトゥトゥラは敗北する。
自負する威力である分リスクが高く、この必殺技を放った後のトゥトゥラには大きな隙ができるのだ。
全覚醒力を一時的に完全解放させるため無防備な状態が攻撃後に生まれてしまう。そこをシスリーに狙われれば為す術はない。
勝つ自信はある。
しかし、シスリーは“超必殺技とわかっていて”仕掛けられるのを待っている事を忘れてはならない。
自信はあっても自惚れてはならない。勝つ自信があるのはシスリーも同じはずなのだ。
「《断絶に煌めく銀の臨界点ヴォーパルセイグリッド》!」
左足から収束した光が噴き出しトゥトゥラの動きが加速する。
それはさながら一筋の流星のごとく尾を引く急行下であり、美しくも恐るべき破壊力を秘めた一撃がシスリーへ突撃していった。
その銀光はまさに全てを破砕する神撃の鉄槌。
「負けませんッ!」
シスリーは展開されていた白色頁サンライトを幾重にも重ね、そのページ達を右手に全て集めていく。
空を見上げ、落ちてくる流星トゥトゥラを確認するとシスリーは集めたページを勢いよく掲げた。
すると、その掲げたページから家一つ程度なら包んでしまう程の六芒星魔方陣が出現し、白色頁サンライト達がその魔方陣を支えるように高速で旋回する。
瞬間、紫色の電撃がシスリーの周囲に迸った。
「その一撃! 受けて立ちますッ!」
紫電をまき散らすその盾は何物も寄せ付けぬ絶対の守護を奮う。
「《超越絶対防壁頁スペシャルマリア》!」
シスリーが誇る最強の防壁が展開しトゥトゥラの必殺技を迎え撃つ。
激突はほんの二秒後に――――――そして決着が訪れる。
しかし。
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