第8話 トゥトゥラ・香笹木・ウィンスレットが来た普通の理由
その昔、ここでは無い違う世界で大きな戦争が起こっていた。
その両世界は対立しており、永遠と思われるような長い時間戦い続けていた。
時々の和平と膠着を繰り返し、両世界は今も戦争を続けている。
正義界セイントフォース
悪党界ブラッドブラック
両世界は全く五分の力をもっており、その拮抗状況に変化は訪れない。一向に決着は見えず、未来永劫ずっとこの戦いは続くのだと誰もが思っていた。
だが、ある時この戦争に終わりの兆しが見える。
正義界(セイントフォース)が究極の覚醒力を得る事ができる秘薬の開発に成功したのだ。
覚醒力とは正義界(セイントフォース)の者達なら誰もが持つ、身体に纏う事のできる力の事だ。
覚醒力は素手で鋼鉄を砕くといった肉体能力を格段に向上させる事ができ、他にも空を飛べたりと、魔界力と似て非なる力を持っている。
秘薬はこの覚醒力を常人の何万倍にもする効果をもっており、普通なら手に入れる事のできない究極の覚醒力を身に宿す事を約束してくれるのだ。
秘薬の名は究極の覚醒力(ジュナイゼル)といった。
これがあれば悪党界(ブラッドブラック)にどんな強敵がいようと関係ない。正義界(セイントフォース)が圧勝して戦争は終了する。
そう、ついに戦争が終わる。和平と戦争の繰り返しに終止符が打たれるのだと、誰もがそう思った。
しかし、そう簡単に事態は運ばない。
秘薬の開発者が究極の覚醒力(ジュナイゼル)を持って正義界(セイントフォース)から逃げてしまったのだ。
その後、逃げた者の手により究極の覚醒力(ジュナイゼル)は何処かへと隠されてしまう。
だが、そう時間かからず“所在はすぐに判明し”、その回収にトゥトゥラが任命される。
だが、回収は不可能だった。
「なぜなら、あんたが究極の覚醒力(ジュナイゼル)に擬装されたコーヒー牛乳を飲んだから!」
「お、お前もシスリーと全く同じ…………パクパクパクパク」
「凄い偶然もあるもんだわ~。こんな事ってあるのねー」
ポンと笑顔でトゥトゥラは雅久の肩を叩く。
「パクパクパクパク」
しかし、雅久はトゥトゥラの顔など見ておらず、穴の開いた天井をずっと見つめ、口から涎を垂らしていた。
「ま、そういう事でアンタは究極の覚醒力(ジュナイゼル)っていう力を手に入れちゃったの。運が悪かったわねー。私も好きでアンタを誘拐するワケじゃないから、まあ諦めて」
グイッとトゥトゥラは雅久の腕を強引に引っ張った。惚けている雅久に抵抗は無い。
正義界(セイントフォース)であるトゥトゥラは空を飛ぶ事ができるので、天井の穴から雅久を連れ出す気のようだ。
「ダメですぅぅぅぅぅぅッ!」
だが、そうはさせないとシスリーが雅久の膝にしがみつく。
「トゥトゥラちゃんズルいです! 先に露木さんを見つけたのは私なんですよ! それに無関係な露木さんを巻き込むのに、本人の許可も無く連れて行くなんて絶対ダメです!」
「はぁ? 何言ってんのよ。コイツには世界の命運かかってんだから、そんなの関係無いっての。それに先に見つけたら私のモノ。後から見つけても私のモノ」
「そ、そんな事言うなんて!? それでも正義の人ですか! 悪党としか思えません!」
その物言いは悪党な人のセリフとは思えなかった。
「というワケで、コイツは私が連れて行くからねシスリー。どうせベラベラ喋っただけで無駄な時間過ごしたんでしょ? そんなコミュニケーション程度で親しみ持ってもらおうとかしたワケ? 全く、相変わらず意味無い事するのが好きねぇ。あと、悪党のする事じゃねぇっての」
「うぅ~!」
シスリーは連れて行かせるモノかとずっと雅久の膝に全力でしがみついているが箇所が悪い。
トゥトゥラは雅久の腕を自分の肩にかけガッチリと捕まえているのだ。これだと引き離すのは難しい。
「引っ張っても無駄よ。純粋な力勝負で覚醒力が使える私に勝てるワケないでしょうが。離れないなら、たっか~い空中まで飛んで、その後落としちゃうわよ?」
余裕の表情でトゥトゥラは告げる。それに対してシスリーの表情は苦しかった。
トゥトゥラの言う通りそれは事実なのだ。覚醒力とは肉体を強化する力であり、強化の力を持たないシスリーがトゥトゥラに力勝負で勝てないのは当然だった。
「うう…………トゥトゥラちゃん…………」
このままだと雅久はトゥトゥラに連れて行かれる。
だから。
「……………………これで勝ったつもりになるんですね」
「ん?」
ボソリとシスリーは呟いた。
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