第7話 トゥトゥラ・香笹木(かささぎ)・ウィンスレットの普通の登場

 「おおおおおおおおおおおおおおッ!?」



 「ひゃわあああああああああああッ!?」



 そして、その直後に雅久は気がついた。


 部屋の天井に大穴が開いている事に。



 「………………………………………………………………………………………………」



 思わず雅久は無言になる。


 さらに、この現状に開いた口が塞がらなくなった。



 「ふぅ~、やっとついたー。長時間の飛行は疲れるわねー」



 目の前には天井をブッ壊して現れた人物の姿があった。


 グルグルと肩を回し「あ~」とオッサンみたいな声を出しながらため息をついている。


 だが、見た目はシスリーにも勝るとも劣らない美少女だ。



 「あ~、肩凝った~肩凝った~」



 健康美をその身で現すような雰囲気はシスリーと対


象的で、見える肌はしっとりと滑らかだ。後ろに束ねられた髪が揺れる姿は彼女の快活さを現しており、ツンとつり上がった目は猫のように可愛らしい。今はジロジロと雅久を見ているだけだが。



 「ふ~ん、やっぱアンタで間違いないっぽいわね。ミネ・ルトス・逗火(ズカ)が何処いるかわかんないからココに来たけどこっちはいきなりビンゴ~。よかったわー」



 歩きにくそうなハイヒールと歩くのに気をつかいそうなミニスカート。しっかりと隠す所は隠しているが、脇や腹部に無意味に思える露出が多く、目のやりどころに困る服装だ。



 「…………………パクパク」



 普段なら雅久の目を奪うには十分な格好である。


 しかし、今の雅久にそんな余裕はない。突然開いてしまった天井の大穴を見てワナワナと震えるばかりだった。


 そしてパクパクと口も動かす。さながら金魚のように。



 「パクパク…………パクパクパク………………パクパクパクパク……………………パクパクパクパクパク」



 雅久は自分の部屋というモノが好きだ。殺風景な部屋だが、その空間は雅久を癒す数少ない空間である。ぐっすりと眠れる布団は最高であり、集中できる机は素晴らしく、ゆっくりと寝転んで寛げる床はここ以外に無い。


 そんなこの六畳の空間は確実な安寧と安心を雅久に与えてくれていた。誰にも迷惑をかけず、誰からも迷惑を受けない。言わば神の空間と呼ばれる場所がココだった。


 そんな愛すべき大切な自分の部屋の天井に。


 穴が――――――大穴が開いてしまった。


 雅久が余裕で通れちゃいそうなくらいビッグなヤツが。



 「て、天井が……………………お、オレの部屋の天井が………………な、なんて事を…………………なんつー事を…………殺風景でも別に特別な所は何もない…………オレが愛している普通の…………部屋を…………」



 この事実に直面した雅久のショックは計り知れない。


 「ふふふ、ついに見つけたわよ」



 束ねた髪をさらりと掻き上げ自信満々に彼女は言った。


 ちなみに雅久と天井貫通女はどちらも相手の話を聞いていない。



 「さあ! おとなしく私達の仲間になってもらいましょうか!」



 彼女に悪びれた様子は何処にもない。むしろ、天井に穴を開けた事を自覚しているのかすら疑わしかった。



 「これで連れ帰って任務完了っと、楽勝だったわね。あ、大丈夫よ。ちゃんと粒子分解して人格崩壊した後に廃人に近い状態で戻してあげるから。さて、問題はもう一つの開発者の方――――」



 「あーーーーーーーッ!」



 彼女が雅久を引きずろうとした時、驚愕状態から回復したシスリーが彼女に指を差して大声を上げた。明らかに知った者に対する反応だ。



 「トゥトゥラちゃん!」



 「ゲッ!? シスリー!? なんでこんな所に………………って、当たり前か。ちっ、悪党界(ブラッドブラック)の方が先に来てたなんて不覚だわ」



 トゥトゥラはシスリーを見るなり舌打ちして毒づいた。嫌な顔を臆面もなく雅久とシスリーの二人に披露する。



 「し、知り合い…………なのか?」



 ショックの淵から這い上がり、なんとか喉から声を絞り出す。何日も飲まず食わずの状態で、やっとオアシスを見つけたかのような口ぶりだった。



「お、お前らはホント何なん…………パクパクパクパク」



 だが、天井を見るとまた顎の上下運動しかできなくなる。一度起きたショックをすぐさま無かった事にできる程雅久は強い人間ではなかった。



 「パクパクパクパクパク」



 どうしようこの天井。どう頑張っても無視する事はできない。なかった事にするには事態が大きすぎる。愛すべきこの空間が無いのでは現実逃避もできない。魔界力だ覚醒力だなんかよりも自分にとって遙かに一大事だ。


 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。


 親にはなんて説明すればいいんだ、近所にはなんて言い訳したらいいんだ。



 「パクパクパクパク」



 雅久は変わらず顎の上下運動を繰り返す。



 「ああ、そうね。名前くらいは名乗ってあげるわ」



 偉そうに胸を張るとフフンと鼻を鳴らし、雅久に天井を貫いた謝罪など微塵も感じさせず自己紹介を始めた。



 「私の名前はトゥトゥラ・香笹木(かささぎ)・ウィンスレット。正義界(セイントフォース)に所属する正義の使徒よ。光栄に思うのね、あなたは私達の仲間になる事ができるんだから」



 「お、お前もやっぱシスリーと同じような事を…………パクパク」



 「やっぱシスリーも勧誘してたか。まあ、そりゃそうよね。究極の覚醒力(ジュナイゼル)だけじゃなくて、あんたの体には最強の魔界力(ディスダッド)もあるんだもんね」



 「究極の覚醒力(ジュナイゼル)って……なんのこっちゃ……パクパク」



 「なんのこっちゃって、面倒くさいわね。まあ、つまり」

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