第5話 シスリー・末露・スティアードの普通の目的
「仲間に入らないかって言ってたのは、アレどういう意味なんだ?」
「あ、それですか」
なんだその事かと、ゴホンと一度咳払いしてシスリーは続けた。
「露木さんが最強の魔界力(ディスダッド)を手に入れたという事は、戦闘を止める力を持ったという事です。それなら、こうして勧誘しようとするのは当たり前じゃないですか。敵へ圧倒的な力を見せつけられるのは露木さんだけですからね」
「あーなるほど……それでオレに正義界(セイントフォース)の仲間になって欲しいって事か」
「え? なんで正義界(セイントフォース)の仲間になるんですか?」
心底不思議そうな顔でシスリーは言った。
「え? だって、お前な正義界(セイントフォース)んじゃないの?」
「まさか! そんなワケないです! 私は悪党界(ブラッドブラック)の者ですよ! プンプン!」
シスリーの頬が膨らみ少し怒り気味になった。正義界(セイントフォース)と間違えられた事がかなりご立腹らしい。
「悪党である私を正義界(セイントフォース)と間違えるなんて、もう信じられないです! どっからどうみても私は凶悪な悪党じゃないですか! 全く、露木さん見る目全然無いです! あり得ないです! アリエナです! プンプン!」
「そ、そうか……申し訳ありません……」
雅久は素直に謝った。どうやら最近の悪党はご近所に迷惑がかからないか気にしたり、プンプンと言ったりするモノらしい。
「でも、別にオレを勧誘する必要はないんじゃないのか? 最強の魔界力(ディスダッド)をもう一回作ればいいと思うんだが」
「それは仰る通りなのですが、最強の魔界力(ディスダッド)のデータが全く残っておらず、製造方法は持ち去った開発者しかわからないのです。今の状態で最強の魔界力(ディスダッド)を作る事はできません」
「あ、そうなのか」
「ですが、です!」
シスリーはパンと膝を叩く。
「その開発者がこの世界にいる事はわかっています! なんとなくですけど!」
「なんとなくかよ」
勢いあっても頼りない発言に思わずツッコミを入れる。
「露木さんってミネ・ルトス・逗火(ズカ)って人物を知りませんか? 偽名だとは思うのですが、開発者の名前なのです。もし知っているなら居場所を教えて欲しいのですが……」
「………………」
何か思い当たるような名前に雅久は思わず無言になった。
いや、絶対にそんな人物は知らないし思い当たるワケがないのだが、何故か心辺りがある気がしてならない。
なんというか、名前の感じで物凄く。
「いや、知ってるワケないですよね。この世界は広いし、なんとなくの情報だし…………ここで露木さんが知ってるとかどんな偶然って話ですよね。最強の魔界力(ディスダッド)を食べてしまっただけでも凄い偶然なのに。あまりにないないないない、アリエナです」
「う、うん…………」
雅久は歯切れの悪い返事をしてしまう。
「最強の魔界力(ディスダッド)を持ち出せるような人物ですからね。そう簡単に尻尾を出すはずがありません。逃走先で本名やあっさりバレる偽名とか使うワケ無いですし……うんうん、やっぱアリエナです。あり得るワケ無しです。うんうんウムウム」
「………………」
いや、そんなはずは無い。思い切り名前が似ているが、あの人はこの世界に住む普通の姉ちゃん(おばちゃんと思ってはいけない)なのだ。
予知なんて特技を持っているが、世の中七十億も人間がいれば一人や二人そんな特技を持った者くらい存在する――――――――と思う。
(そ、そうだよな……いくらなんでも姉ちゃんが……)
それに、話しかけなければ営業中ずっとテレビを見てはそれに対して無愛想に喋るような人物だ。そんな人が秘薬を作っているワケが無い。
戦争のバランスを崩すような人が店を経営しているなんてありえないし、そんな暇があるならより良い秘薬作りに勤しむはずだ。
よって、寿々花がシスリーの言う開発者なワケがなかった。
「何でもこの世界の何処かで個人商店を開いてるらしく、峰途商店って名前らしいんですけど――――――――――」
「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
開発者なワケが無い人物を名指しで呼ばれたに等しく、雅久は思わず叫んだ。
「なんで寿々花姉ちゃんがそんな重要人物になってんだよ!?」
「え!? し、知っているんですかッ!? アリエナッ!」
思わず四つん這いで雅久の顔の直前まで迫り「く、詳しくッ!」と言ってくるシスリーを雅久は押しのけ続けた。
「えっと、オレの通ってる中学の途中にその峰途商店があって、そこの姉ちゃんとは長い付き合いで…………って、お前は最強の魔界力(ディスダッド)の隠し場所を知ってるんだろ? なんで峰途商店の場所知らないんだよ?」
「いや、あの…………私って方向音痴が酷いみたいで峰途商店の場所はわかってても、辿り着けないといいますか…………」
「悪党界(ブラッドブラック)って、恐ろしく人材不足なのな」
「いやー、なので露木さんの家に辿り着くのにも苦労しましたよ。ここに来るまで迷ったせいで放火、誘拐、脅迫、殺人、麻薬などなどの事件を色々解決しちゃいました。道に迷ってこんなに事件を解決する事になるなんて思いませんでしたー」
「お前に凄まじく色んな事が起こっててビビるが、それは置いといて」
その辺りを突っ込むと長くなりそうなのでやめておく。
「それより寿々花姉ちゃんが秘薬なんてモノを作ってた事の方が信じられないな…………」
その事実はシスリーが話した戦争や最強云々といった事よりも遙かに信じられなかった。
雅久にとって寿々花は小さい頃から面倒を見てもらった本当の姉のような存在で、世界をひっくり返せる(らしい)秘薬に関わった人物と言われてもピンと来ないのだ。
(でも、怪しい所があるかといえば…………まあ、あるけども…………)
そう、普段なら気にかけないような怪しい所なら寿々花にはある。
あの店は閉店時間が異常に早いがそれだけではなく、閉めた後は“何の反応も無くなる”のだ。
そう、それは誇張でも何でも無く。
店が閉まった後の生活や行動を知る者はおらず、営業時間以外で寿々花に会った者は誰もいない。
寿々花の店内での暮らしは誰も知らないのだ。雅久も店で買い物したり寿々花と出かけた事はあっても、店の奥にある生活空間に入った事はない。
以前、雅久は閉店後に何をしているのか聞いた事があるが、適当な返事をされただけで何も聞けてないままだ。
それ以降は気になりはしても、別に無理に聞き出そうとはせず今日まで過ごしている。
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