第4章 示唆

4−1

梶田さん、奥さん、その浮気相手、三人全員の死亡が確認されたことを、事務所で逆村さんから教えてもらった。捜査を担当することになった刑事が知り合いで、その人に聞いたそうだ。

じきにその刑事たちがここに来て、俺たちに話を聞くことになるだろうと逆村さんは言う。

状況からして、奥さんの浮気を知った梶田さんによる無理心中だと判断するのは容易い。その浮気について調査していたこの事務所に警察がやってくるのはごくごく自然な流れである。

浮気調査をしていた事実はある程度捜査を進めない限りわからないことだが、どうやら先んじて逆村さんが話をしたらしい。

「隠せるものじゃないし、隠していいものでもない。責任を問われるようなことになったりはしないだろうけど、これまでの調査の経緯はしっかりと伝えておいたほうがいいだろうね」

「なんか気が進みませんね……」

「関係者がみんないなくなっちゃっても守秘義務はあるしね。ただ、警察は僕達が梶田さんに渡した報告書を見つけて中を見るだろうから、あまり意味はないと思うけど」

逆村さんが苦い顔でそう口にした。

「しかしまぁ、凪島くんも災難だったね、ついでのように襲われかけるとは」

「えぇ」

「梶田さんは君の顔を見て豹変したんだってね。何か、心当たりはあるかい?」

「いえ……全く。ただ、「お前みたいなやつが」と口にしていたので、もしかしたら逆村探偵事務所の凪島考ではない、別の要素が梶田さんを刺激したのかもしれません」

「ふむ。現場の様子が再現できればいいんだけど、周りの人たちは逃げ惑うのに必死でほとんど覚えてないだろうね」

「でしょうね、かなりのパニックでしたから」

「まぁ、君にだけでも話を聞けたのは幸いかな。梶田さんが何故あんな凶行に及んだのか、うちとしても知っておきたいからね。淀みが関係しているかもしれないし」

「……そうですね」

少しだけ後ろめたい気持ちがあることは否定しない。

黙っていることがよい結果をもたらすとは思っていないが、今はまだその時ではないという、そんな予感がしていたのだ。

あの場に水川先輩もいたことを、俺は皆に黙っていた。


その結果、取り返しのつかない事態になってしまう事も知らずに。

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