跡地にて

Salt

第1話

午前六時過ぎ、一人の男がいつも通りの時間に目を覚ます。

「そうだ会社はもうないんだった」

男が務めていた会社が無くなって数週間が経つ。もう仕事もしていないので早く起きる必要は無いのだが体内時計が朝だと知らせている。

体を起こすと所々穴のあいたTシャツと擦り切れたジーパンを着替えることなく歩き出す。今日も食べられる物を探さなければならない。中々見つからず最近は何も食べていない。


男は未婚ではあったが厳しい時代にも関わらず支店を任せられる程には出世し、それなりに幸せに暮らしてきたはずだった。

それが今となってはこの有様だ。食事にありつく事さえ困難になっている。

帰る家など無く、両親や兄弟はもうこの世にいない。頼る人など居るはずもなく孤独に生き抜いて行かなければならない。


男は数週間前まで会社のあった場所に座り込む。小さなビルがあったそこにはかつての面影など綺麗さっぱり無くなっていた。

あれから何日経ったか分からないが限界が来ている事だけは分かる。今日の収穫もゼロだ。

体を休めるために目を閉じると段々と意識が遠のいていく。幸せだった頃の思い出が蘇ってくる。走馬灯というやつだろうか。

それにしても人生とは何が起こるか分からないものだ。未来永劫安泰だと謳われていた会社は一日にして潰れ、一日にして生き抜くことさえ難しい生活になってしまったのだから。

意識が消える直前に男は呟く。

「ついこの間まで世界がこんな危険な状態だったなんて知らなかったよ



こうして第三次世界大戦、人類最後の生き残りが死んだ。






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跡地にて Salt @0920

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