第7話 道草を食う~ノビル

 小学校から自宅に帰るまでの道は、圏央道開通によってかなり様変わりしてしまった。道は明るくなり、道路には信号ができ、通学時に怖い思いはしなくてもよさそうだ。

 私が子供の頃には随分と薄暗い場所があり、そこかしこに魅力的な植物が生えていたが、今はそれらのほとんどが失われてしまった。ただ、子を持つ身になって思うのは、「観察より安全」だから、それは仕方のない事だ。

 道端に緑色の細い葉が何本も束になってシュッと伸びていれば、それはノビルだ。慎重に引き抜くと、土の中から幅は1㎝にも満たない、クリーム色を帯びた球形のものが現れる。漢字で書くと野蒜。私は、いつ覚えたか定かではないのだが、これを見つけると持って帰って母に渡し、ぬた味噌和えを作ってもらうのが好きだった。今思うと、畑の端に生えていたりしたものもあるので、窃盗すれすれだったかもしれない。だが、今よりも、畑と空き地の境界があいまいで、そもそも空き地が今は見当たらない現状とは時代が違う、という事でお許しいただきたい。

 母に言わせると、まさに「道草を食う」を文字通りやっていた事になる。だいぶ長い間、呆れたように母にこのことを繰り返し言われたものだったが、しかし、羽村の土手で、ヨモギやゲンノショウコを収穫することを教えたのは母である。野草を食べるという事に、何の疑問も持ってはいなかった。そう育てたのだと少しは自覚を持ってほしい。

 こんなことを書いていると、母との間に確執があるように感じられる方もいるかもしれない。確かに以前は有ったのだが、今はそうではない。一度、母に対して思っている事をありったけぶちまけてから、思い煩う事も少なくなった。亡くなった姑は、私が母を悪し様に言う事に気をもんでいたが、人格形成の大部分と、野生の植物に対する態度を育んだのは母であり、その点では感謝もしているのである。

 ノビルのぬた味噌和えは、草が友達だった子供の頃の、思い出の母の味である。





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