第79話 醒めない夢

79.

~果歩が消えた日から 30




「果歩、今でも全く俺や他の家族のこととか、過去の

暮らしに関して何も思い出せないのか? 」



「はい・・なにも。すみません」




 「いや、しようがないよな、事故に遭って

そうなったんだし」




 「まぁアレだ。だけどこうして俺と再会できたんだし

少しずつでいいよ、一緒に暮らしているうちに思い出せる

こともあるかもしれないし。俺達夫婦だったんだから

戻ってくるよな? 」




「ごめんなさい、それは無理です」



 否定した私の言葉に・・流石に義両親からも私の父親からも

ぎょっとしたその場の雰囲気が伝わってきて心苦しかった。


 だけど・・どんなことがあってもこれだけは、これだけは

譲れないもの、絶対に。これから元夫にどんな言葉で

縋られたとしても、私の気持ちを変えることは不可能だ。




 「どうして? その、え~と・・言いにくいけど確かに

俺は良い夫ではなかったからな。だけどそういうのも

記憶にないはずだし、なのに何で戻ることをそんなに

簡単に拒絶するのか、さっぱり判らないなぁ~コマッタ」



 

 「実は私、助けて貰った溝口さんと結婚してるンです。

 だから、この先あなたとの婚姻生活は出来ないんです」


 「ちょっと待ったぁ~! 」


 元夫が興奮気味に大声で待ったをかけた。

 だけどその声に強さはなく、最後の語尾は震えてひしゃげた

ような音声で終わった。




 「それ、籍入れられないんだからただの事実婚だろ?

悪く取ると不貞になるんだぞ! 」




 アンタがそれを言うか? 言えるのか? と私は胸のうちで

呟いた。




 「ほんとっ、不貞、不倫、浮気、言い方いろいろですが

だらしないイメージが強いですよね? 」 



 私の確信犯的反撃に、脛に沢山の傷を持っている元夫は

少したじろいた。少しは昔の己の行動を反省するがいい。





 「私はそういうの、駄目っ。他人に対しても許せない

けれど、自分に対してもぜんぜんっ駄目です」




 「なら、どうして・・」




 「私と溝口は籍も入れてる正式な夫婦です。

誰にも文句言われるような関係ではないんですよ? 」







 

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