第78話 醒めない夢

78.

~果歩が消えた日から 29



 元夫との話し合いの日を迎えた。私は事故でずっと

記憶を失くしたまま、という設定で話し合いに臨む

ことに決めていた。


 啓太さんと母とも相談して3人でそういう結論に

至った。



 なので母には、元夫や私の父親、そして元夫の両親併せ

今のいままで私とは行方不明のまま会えていない

という設定で立ち振る舞ってもらうことになっている。




 碧は、一通りの話し合いで落ち着いた状況になってから

皆に会わせようということで碧は話し合いの場には

連れて来なかった。



 そして啓太さんには今の夫というより、事故の時から

大変お世話になってきている恩人っていう立ち位置で

控えめに奥の方に陣取ってもらうことにした。



 ちょっとした和食のお店の個室を借りて再会と今後の

話し合いが始められることとなった。



 ひとまず揃った親族の前でどうしてこんな風になって

しまったのか、というあらましを説明させてもらった。



 まず意外なことに、私を見て父が涙を零した。

 母は出てこない涙に四苦八苦しながら大泣きを装った。

 お母さん、上手くいってるわよ? 



 「記憶が戻っていないので、思い出せないのですが

お2人にはご心配おかけしてすみませんでした。

ほんとに、ごめんなさい」



 「しょうがないさ、大きな事故にあったんだから。

生きててくれて私はうれしいよ。もう会えないかも

しれないと諦めていたからなぁ。良かった・・よかった

生きててくれて」



 「ほんと、果歩さん、私や主人もどんなにうれしいか

こうやって生きてるあなたに会えて」と義母が言って

くれた。



 「康文があなたに心配かけてばかりだったから

あの頃。事故だってそのせいだったかもしれないわね。

心労が原因でついうっかり碧のことを忘れたんだよ

きっと。康文とは果歩さんの行方が判らなくなってからも

絶縁は続けていてね、私らは康文から果歩さんのことで

連絡を貰うまで会ってもいないし、まして話などして

なかったんだがね・・今回息子の姿を見てまた情けなく

なりましたよ。ぜんぜんパリっとしてなくて、なんていうか

侘しさ漂う中年というか・・」




「親父ぃ・・ソンナ..」




 「まぁ、息子が今更どんな言い訳と贖罪と懇願を

するのか想像もつかないが果歩さん、康文と今後のことを

話し合ってみてやってくれますか」



 と親心を覗かせた義父の申し出を受けた。




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