第80話 醒めない夢

80.

~果歩が消えた日から 31




「そんな! おかしいじゃないか! 碧を連れての記憶喪失

なんだから、自分が既婚者だったのは判ってたはず。

 夫がある身でそんなこと許されないだろ? それに籍が

入ってる? 身元が判らないのにどうして入籍できんだよ」





 「記憶喪失者は籍を作って貰えるんです。生きていくのに

必要なものは、例えば住民票とかもね」




 「こうして、俺と再会したんだから、そんなの取り消し

請求してやるよ」



 「そんなことしても無駄ですよ? 私記憶は戻ってませんが

あなたがしていたことは、知ってますからね。知ったからこそ

思い切って溝口さんの胸に飛込めたんです」



 あなたがしていたことを知ってますから、と言った時の

元夫の表情ったら、ドキッとしたのでしょう、ギョっと

した風でした。



 「私、溝口さんとのことを考えるようになってから

そう、あなたの言う通り夫だったあなたのことが気に

かかるようになって、ちょくちょく事故に遭った近くの

コンビニに行くようになりました。誰か私を見知って

いる人に会えるんじゃないかと思って。事故から4年目の

ことでした。もう駄目かもとあきらめた頃、私に声を

かけてくれた人物がいたんです。そしてその人とはかなり

親しくしていたらしく、私があなたの女性関係で悩んで

いたという話を聞きました。その人はそれが原因で私が

蒸発したんだと思ってたって言ってました。そして私は

溝口さんとの結婚を強く意識するようになりました。

だけど、あなたと結婚している私が記憶を失くしていて

新しい戸籍があるとはいえ、重婚なんてすごく嫌でした。


 不思議なもので、縁っていうか物事は転がる時には

面白いほど転がっていくものなんだなぁと思うことが

その後すぐに起きたんです。事故に遭った時に着ていた

コートは汚れて破れれていたのですが、記憶が戻る

手助けになるかもとか、記憶が戻った時のためにとかって

いうことで、捨てずに取ってあったんですが、その昔の

知り合いに声をかけられて帰った日から2~3日後に

懐かしい気持ちでそのコートを見てて、何気に今まで

見てなかったコートの裏をよく見たら判りにくい内ポケット

があることに気付いて、中を探ったら・・・奇跡が

起こったんですよ」



 

 

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