第75話  醒めない夢

75.

~果歩が消えた日から 26



 翌日は休日で下の階に溝口さんからお茶に誘われて 

碧が遊んでいる横で私と溝口さんは昨日の話題に触れた。




 「すみません、昨日は勝手なことを言って。

お母さんも果歩さんもお気を悪くされてないですか? 」




 「ええーっ、とんでもありません。私たちのほうこそ

碧がとんでもないお願いをしたのに止めも叱りもせず

溝口さんにお任せしてしまって申し訳なく思っている

くらいです。ほんとにすみません。なんか碧のお願いっ

ぷりがあんまりスラスラと自然で何て諭したらいいのか

判らなかったものですから」



 「あのぉ~、お気を悪くされてないのをいいことに

では、もうひとつ・・僕の気持ちを言ってしまいます。

 あのぉ、あくまでも僕の一方的な気持ちなんですけど」



 もうひとつの気持ち? 溝口さんは何を言おうとしているの

だろう? 私はこの時きゅっと胸が苦しくなるのを感じた。

 そして彼の次の言葉を待った。




 「僕は本当に碧ちゃんのお父さんになりたいと

思ってます。そして果歩さんの旦那さんになれたら

いいのになっ・・とも。僕ね、天涯孤独っていうヤツ

なんですよ。遠い親戚くらいはいるのかもしれませんが

成人する頃までに相次いで両親失くして。もうその時点で

両親双方の祖父母も鬼籍に入ってたので。


 近所のおばさんや役所の親切な担当の人も一生懸命

手をつくしてくれたのですが、両家共に縁薄い家系だった

ようで縁者を見つけることはできなかった。



 そんなだから、僕は結構寂しく暮らしてきてたんです。


 でもひょんなことからあなたと碧ちゃんに出会って・・

そしたら果歩さんのお母さんとまで仲良くなれて

なんか気付かないうちに3人が僕の家族だったらって

夢見るようになってました。


 なので碧ちゃんのお願いは本当にうれしかった。


 ははっ、でも駄目ですよね。

 果歩さんは今はどうあれ、人妻だから。万が一お付き合い

するようなことになったら不倫になってしまう。


 果歩さんと碧ちゃんと澄江さんが僕のモノなら

どんなに幸せだろうね」


 やさしさいっぱいで出来上がっている溝口さんの顔。


 眉と口元が動き、表情に寂しげな雰囲気を漂わせ、彼は心の

奥底に沈めていたであろう本心を吐露した。


 みぞぐち・・さん!




 

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