第74話  醒めない夢

74.

~果歩が消えた日から 25



 頑固な父親がいるのでそうそう何度もという

わけにはいかなかったけれど、母は父親がまだ定年

前で働いている間は父親の出張や同窓会、ゴルフ旅行や

冬場のカニすき旅行等々、合間を見ては泊まりに来て

くれた。



 メゾネット式の2階での楽しい私たち親子の交流に

やさしい性格の溝口さんもちょこちょこ顔出しして

くれるうちに私や碧ばかりでなく、母とも親しくなった。




 母の口癖が、溝口さんのような人が私や果歩の旦那さん

だったら、どんなにか私たち幸せだったでしょうに

だった。



 そういう時、私もお母さんも男運ないんだね、って

私が母に言う。


 そしてふたりしてため息をつくのだった。


 やさしい穏やかな男性と縁のなかった私たち親子にとって

誠実でやさしい溝口さんは心のオアシスになっていった。




 そんな日々の中、6才になろうとしていた碧が

4人でクリスマスパーティーをしていた時のこと。



 ほんとに、それはほんとうにへっ?っていう感じで

トトトトって溝口さんの背中にペタッてくっついて

碧が言った。


 碧はその頃溝口さんから啓太って呼んでねって言われてて

啓太くんっていつも呼んでたんだけれども・・


 

 「啓太くんっ、碧のおとしゃんになってくださいませ。

 ムフフフフッぅ~♪」って朗らかにお願いをしたのだ。


 なんかその場で聞いていた私も母も、当人の溝口さんも

一斉に「「「あははははっー」」」て笑ってた。



続けて、碧が駄目出しした。



「啓太くんはもう碧のおとしゃんだもンね。

だめよ、だめだめ。誰にもあげなぁ~いっ♪」




 「碧ちゃん、うれしいなぁ~俺でいいの? 」



「はいっ・・おれでいいですぅップ、デヘヘ」  




「じゃあ、今日から俺は碧ちゃんのお父さんになります。

碧ちゃん、俺をお父さんにしてくれてありがとっ」




 私と母は顔を見合わせてかなり焦ったのだった。



 そしてこの時不謹慎にも、碧が羨ましかったのである。

 碧ずるいぃ~、溝口さんにお父さんになってもらって・・。


 私だって・・私だって・・溝口さんには旦那さんに

なってもらいたいよ。厚かましくもそう思ってしまった

のである。


 

 そんな私を見ている母の顔を見て・・ふと想像して

しまった。


 まさかまさか、母よ、あなたまで私のような考えを妄想

したりしてないわよ・・ね?





 

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