第76話 醒めない夢

76.

~果歩が消えた日から 27


 

 溝口さんが夫だったらどんなにいいだろうかと

叶うはずもない願いを私もまた抱いていた。


 心が通じ合っていたことを知って、すごく

うれしかった。



 私はあることを決心した。



「溝口さん、そう言ってもらって私すごく

うれしいです。少し待っていてはいただけませんか? 」



 「・・? 」



 「詳しい話しは後日ということにしてください。

お願いします」




「判りました。何のことやら何を待てばいいのか

正直俺には良く判らないけど待ってたら何かお話

聞けそうみたいですね。待ちます♪」


            ・・・


 その夜、私は貴重品を入れてあるチャック付き

クリヤーケースからある書類を取り出し、改めて眺めた。


これを有効活用する日が来ようとは・・。


 翌日碧を保育園に預けたその足で、その書類を持って

区役所へ行き、その届けを提出したのだった。



 それは夫が商社マン時代に某国へ赴任し浮気をして

いた頃に止めてほしいと言う私との間で言い合いになった

時、夫から手渡された離婚届けだった。



 いくら浮気をしても私が夫を見限ることなんて

できはしまいと、高を括っていた夫が私に対して

取った意地悪で下衆な行為だった。




 「何ごちゃごちゃ言ってンだよ。俺は別に別れても

いいんだぜぇ~。女に不自由はしてないんだからなっ。

ほらっ、これ、見てみ! 緑の紙・・知ってるだろ?

ほらほら」



 と言いながら夫はサインをした。誰に書いて貰ったのか

すでに保証人の欄も埋められていて本気度マックスを

アピールしてきて、私の目の前で一文字一文字ゆっくりと

見せ付けるようにサインし、私に手渡してきたのだった。


 「そんなに俺のことが気にくわないんならいいぜ

いつでも。出せるものならな! 」



 そう言い残して夫は外へ出て行ったことがあった。


 私は悔しくて母親にサインしてもらって・・いつか

出してやるぅ~と息巻いてたっけ。


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