第61話 醒めない夢 

61.☑

~果歩が消えた日から 12



 気がつくと俺はとっさに有り得ない選択肢をしていた。


 それは俺の憎悪から出たものだ。

 

 果歩と娘の碧を見失なってから俺の経験した苦悩、孤独感

罪悪感、反省、いろいろな気持ちで過ごした1ヶ月間。



 そんないろいろな感情がない交ぜになった気持ち全部が

仲間からの予想外の言葉で激しい憎悪となってひとつの

大きな塊へと変化していった。


 いざこざはあったけれど、それでも妻と子は俺にとって

ずっと一緒に暮らしてきた大切な家族なんだよ。


 その家族と引き離した女を許せるかよ。


 俺は鬼になってやる、そう決心した。


          ◇ ◇ ◇ ◇



 一週間もしないうちに仲間友紀は康文の家に転がりこんだ。


 仲間友紀は次の妊婦健診でおなかの中の子の心音が

聞こえてないと言われて帰って来た。



 念の為、更に1週間後に心音の確認を取ってもらったのだが

やはり心音は聞こえず稽留流産と診断されたのだった。


 そして数日後の予約を取りつけ、手術を受けた。


 元々妊娠が分かった時、店長の深山とは切れていて中絶を

決めていたのだ。


 そのような事情もあって、特別悲しいなどというような気持ちも

沸いてはこなかった。


 子供なんてすぐできンじゃん、と思ったくらいで。


 授かった子に対して全く執着もなかった仲間は、よりを戻し

同棲を始めた深山に淡々と流産してしまったことを伝えただけ。



 大したことと考えてなかったので詳しい説明は省き

ただ『駄目だった、流産しちゃったぁ~』と、話しただけだった。



 少し出血があったものの、健診で医師から教えられて分かった

くらいで、仲間自身には痛みもなく、あれよあれよという

流れで、数日間で妊婦ではなくなった。

  

 -



 嘘か誠か、結局子供は流産してしまったということらしい。


 仲間がどこまて゛本当の話をしているのかわからない。


 結婚をすると言っているのだからわざと流産っていうのは

考えられない。


 考えられるとするなら、妊娠そのものが眉唾だっとしか

言いようがない……。


 病院を聞いてわざわざ真実を確めに行くようなことは

しなかった。


 そこは俺にとって重要なことではなかったからだ。



 逆に本当に出産となっていたら、ちゃんと調べただろうと

思う、騙されることのないように。



 婚約を破棄するとなると、実の親ともひと悶着なしには

済まないだろうし、彼女には厄介ごとが控えているわけなのだが

だいじょうぶとしか言わない。



 結婚の報告や結婚式などは、2人の生活が落ち着いてから

両親に報告するからと言うばかりで、困った素振りがない。


 

 まぁ、厄介ごとが自分に降りかからないのであれば

俺はどうでもいいけどね。


 しかしあれだね、慰謝料も要求してこないほど

仲間の幼馴染の婚約者とその両親はお人よしなのか?



 結局結婚を決めた理由の子供は仲間のお腹の中から

いなくなってしまったが、俺たちは一緒に暮らすように

なった。


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