第62話 醒めない夢

62.

~果歩が消えた日から 13



 彼女には婚姻届を出したと言ってあるが、実はそんなもの

出しはしなかった。


 そう、最初から彼女と結婚するつもりなどさらさらなかったから。



 仲間との結婚は、俺から妻と子どもを奪った彼女に

復讐してやろうと考えての計画だったのだ。

 


 復讐をコレ幸いと、実家が裕福らしい仲間友紀から

店が出している赤字補填のためにちょこちょこ金を出させた。



 幼馴染との婚約を破棄したのによく親がホイホイと

金を出してくれるものだと思っていたが、どうも

そうではなかったらしい。

 

 俺の勝手な思い込みだったって訳だ。


 成人した時に親からまとまった額を生前贈与で貰ってた

金を友紀が俺のために融通してくれてたようだ。



 何度目かにそう聞いた。



 何度目かの俺からの金の無心に、もうこれ以上は

応えられなくなりそうで、とうとう、真実を語ったのだろう。



 そんなモン、語られても語られなくても俺にとっちゃぁ

どうでもいいいことなんだがな。


 金さえ、引っ張れればさ。


 -



 友紀と暮らすようになってから1年が経っていた。


 この間に俺が彼女から引っ張った額は8桁に近付いていた。

 正直こんなに引き出せるとは思ってなかった。



 時を同じくして……

 1年前の今頃彼女は流産していたのだが、その心の傷も癒えたのか

『そろそろ子供が欲しいね』と言うようになった。



 その彼女の言葉が合言葉のように俺の最後の計画を

後押しすることとなった。



 子供が欲しいなどと、ふざけた寝言を望まなければ 

もう少しやさしい良い夫を演じてやっても良かったのに。

 

 欲張りな女は嫌いだ!

 


 これを最後にと、駄目元で再度金を用意できないか?と

聞いた俺に……


『店の赤字補填には親からの生前贈与を当てていたがそれも

底をついた今、婚約破棄のことがあるから親には借りることが

出来ないの。だから店へ投入するお金は自分にはもう支払えない』


と友紀が悲しそうに言った日、俺は最大級の爆弾を落としてやった。



          ◇ ◇ ◇ ◇




「じゃあ、俺たちの関係もこれでお終いだな」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る