第55話 醒めない夢
55.
~果歩が消えた日から 6
「いえ、夫婦喧嘩は……」していませんと俺が言おうとしたが
最後まで言わせてもらえず、義母は畳み掛けるように言ってきた。
「だとしてもおかしいわね。
それならうちに来そうなものなのに。
小さな子を連れてるからうちじゃなく他所に泊まったっていうのは
考えられないし。
どうしたのかしら」
「すみません、俺心当たりをもう少し探してみます」
そう言って何か言いかけている義母の話を遮り俺は電話を切った。
実家に行ってないのなら、これ以上どうしたこうしたと
話をしてもしようがない。
とにかく居場所を探さなくてはと気持ちは焦るばかり。
義母にああは言ったものの
肝心のどこを……
誰を……当たればいいのか途方に暮れた。
翌日警察署に行った。
該当者は見当たらなかった。
―――――
事件らしい事件もなく、のほほんとした雰囲気のある
康文の住む街の警察署では、これまたヤル気のない新人の
コンピューター入力の単純ミスで果歩が入院した先の警察から入って来ていた
情報はコンピューターの中からきれいさっぱり消えていたのだった。――――
康文の元から去りたかった果歩にとっては
幸運としか言いようがない。
幸運という言葉を使えるかまでは微妙なラインだが
女神は果歩に微笑んだのである。
俺は……
オレは……
ずっと娘のことも妻のこともちっとも気にかけず暮らしてきた。
なのに、このざまは何なんだよって自分に突っ込みたくなる。
家に帰っても誰も居ない部屋に、ものすごく寂しさを
感じる自分がいる。
今まで空気としか扱ってこなかった自分の家族。
こんな気持ちになるなんて……。
自分が一番自分の気持ちを不思議がってる。
なさけなく女々しい男だったんだな俺。
仕事にも女にもだらしのない俺の側でずっとストレスを抱えて
生活していた妻は、娘と共に俺の目の前から忽然と居なくなってしまった。
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