第54話  醒めない夢

54.

~果歩が消えた日から 5


 

 結局私は記憶喪失の身元不明の女って設定のお墨付きをGetできた。


 奇跡だと思う。


 警察の人や医師看護師さんたち、粘り強く身元は捜すので

気を落さないようにと励ましてくれた。



 申し訳ないけれど、ありがとうございまぁ~す

私は元気です、とても……っていう心境で

嬉しさを隠すのに大変だったかもかも。


 とにかく私は逃げ切ったのだ。



 そしてこれからのことをどうするかってなった時

溝口さんが小さいお子さんもいることだし

住まいが確保できるまで身元引受人になると申し出て

くれたのだ。わたしさえよければって……。



 渡りに船。

 願ったり叶ったりだった。



 溝口さんのお宅はマンションなんだけどメゾネットになっていて

階別に2部屋ずつあってそのうちの1部屋を私たちに提供してくれることになった。


 貸していただいた部屋は広めで隣のもう1部屋は浴室になっている。


 2階にもトイレがあるので助かるぅ~。

 さてっと、これからどうしようかな。



          ◇ ◇ ◇ ◇



俺の妻、果歩が消えた、消えてしまった。

 しかもまだ小さな碧と共に。


 まだ狐につままれたような気分だ。

 どうして? 何故だ? という気持ちが拭えない。


 海外単身赴任中の浮気の時も、その時の女を日本に

呼び寄せて会ってるのを知った時も……そして仲間友紀との

浮気を知った時も果歩は出て行きはしなかった。


 それなのに何故今頃?


一縷の望みをかけて心配で義母に連絡をとった。


 だが帰ってきた返事は、意に反するものだった。

 来てない、居ないと言われたのだ。


 焦る康文だった。

 



「夫婦喧嘩でもしたの? 」


 義母から聞かれた。


 してなかったというのは嘘になるけど、どうなんだろうこの場合。


 俺は返事に詰まった。


 そのことで義母は肯定と受け取ったようだ。

 参る。

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