第53話 醒めない夢

53.

~果歩が消えた日から 4



 いや駄目だわ、そんなの。

 自分の気持ちがしんどいからって彼を共犯者にしようなんて

私ったら。


 ここで最後の最後まで記憶を失くしたってことにすると

決めたのなら、自分ひとりでこの問題を抱えていかなきゃ。



 彼を罪人(つみびと)には出来ない。

 

 目の前に飛び出して散々驚かせて、警察にも取り調べ

られるような目に遭わせた上に、実は私が本当は記憶なんて

失くしてないのに、自分の都合で記憶失くしたことに

してることを知らせて、その上周りには内緒にして

おいて下さいなんて・・医師や警察官へ嘘を付かせる

ことになるようなこと・・駄目駄目っ、果歩、駄目だよ。



 よしっ、ばれたらしようがないじゃないの、一旦家に

帰ればいい。


 奇跡的にこのまま身元がばれなければ、娘とふたり

生きていけるように対策をたてて、なんとか切り抜け

よう。



 私は気持ちを固めた。


 気持ちが揺れてる間、なんか・・ずっといやぁ~な

気持ちだった。けれど迷いがふっきれたからか今は

気持ちが落ち着いてきたのが判る。


・・・



  

 

 「お邪魔します」




 「遠慮しないで!

 ささっ、碧ちゃんと果歩さん疲れたでしょ?

 こちらへどうぞ♪


 何か飲み物いれますね。

 あっ、果歩さん碧ちゃんにはりんごジュースに

しましょうか? 僕、結構ジュース系に拘りがあって

果汁100%のものしか、買わないんですよ。

小さい子にちょうどいいでしょ? 」





「すみません、運転してたから私なんかよりずっと

溝口さんのほうがお疲れでしょうに。

ありがとうございます。

それと碧にまで。


 でもすごいですね。

果汁100%だなんて、子供を持つ母親から絶賛信頼度

高くなりますよ?


 健康に気をつけられてるんですね? 」





 「ええ、そりゃうもう・・なんて言ったら少し引かれ

そうですけど、正直その通りなんです。

 すごく気をつけてます。


 ここ数年のうちに学生時代の友人、会社の上司、同僚と

驚くぐらい次から次へと難しい病気で亡くなってまして

ね。自ずと自分の身体に気を遣うようになりました」




 溝口さんにコーヒーを淹れてもらってほっとさせて

もらった。


 碧は出してもらったりんごジュースで ごきげんだ。


 溝口さんが碧ちゃんの玩具になるものが無いから

碧ちゃんつまんないよなぁ~なんて言いながら

奥の部屋から将棋の碁盤と将棋を持ってきてくれて

碧に貸してくれた。


 あ~こらっ、碧ったら投げまくってるよ。(汗:)


ンで溝口さんが碧の放り投げた駒拾ってるよぉ~

そんなだから碧がよけいはしゃいで投げまっくってるう~。




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